2013年7月31日水曜日

麻生副総理が「ナチスの手口を参考に」と講演

 麻生副総理29日夜都内で講演し、憲法改正をめぐり戦前ドイツのナチス政権時代に言及して、「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」と述べたことに対して、朝鮮日報が厳しく批判する社説を載せました

 麻生氏の講演を報じた共同通信の記事を読んでみても、「ワイマール憲法が、誰も気がつかない間にいつのまにか変わってい」という意味がまず不明で、それ以降の講演の論旨も理解することが出来ません。

 ワイマール憲法の変更についての経過は下記のとおりであって、とても「誰も気がつかない間に・・・・」というようなことではありません。

 19331月にヒットラーが首相になるとその日後に国会を解散させ選挙期間中に起きた国会放火事件を口実に、4000人以上ともいわれる共産党幹部を逮捕・拘束しました。 
 選挙後にはただちに憲法違反の「全権委任法」を、反対議員は拘束し欠席議員も出席とみなすという特例法もとに2/3以上の賛成を得て成立させました。
 その後ナチス党以外の全ての政党は解散させ、軍隊と警察を掌握し秘密警察(ゲシュタポ)を創設して首相就任後僅か年のうち完全な独裁体制作り上げました
     註.以上、2013年3月21日「ヒットラーが思い起こされると」 より抜粋

 朝鮮日報は、まずワイマール憲法の改変についての麻生氏の認識の誤りを正した上で、「第2次世界大戦終戦後、世界各国はヒトラーとナチスを肯定的に捉える言葉や行動をタブーとしてきた。(中略) 本当に歴史を振り返ることができれば、いかなる場合でもナチスの手口を参考になどと語るべきでないことくらいは分かるはずだ。それが政治指導者に求められる最低限の常識であり教養だ
と、極めて正当な主張を展開しています。

 以下に共同通信の記事と朝鮮日報の社説を紹介します。
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憲法改正でナチス引き合い/麻生副総理、都内の講演で
共同通信 2013年7月31日
 麻生太郎副総理兼財務相は29日夜、都内で講演し、憲法改正をめぐり戦前ドイツのナチス政権時代に言及する中で「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」と述べた。

 「けん騒の中で決めないでほしい」とし、憲法改正は静かな環境の中で議論すべきだと強調する文脈の中で発言したが、ナチス政権を引き合いに出す表現は議論を呼ぶ可能性もある。

 麻生氏は「護憲と叫んで平和がくると思ったら大間違いだ。改憲の目的は国家の安定と安寧。改憲は単なる手段だ」と強調した。その上で「騒々しい中で決めてほしくない。落ち着いて、われわれを取り巻く環境は何なのか、状況をよく見た世論の上に憲法改正は成し遂げられるべきだ。そうしないと間違ったものになりかねない」と指摘した。

 安倍晋三首相や閣僚による終戦記念日の靖国神社参拝を念頭に「国のために命を投げ出してくれた人に敬意と感謝の念を払わない方がおかしい」とし「静かにお参りすればいい。何も戦争に負けた日だけに行くことはない」と話した。 (共同通信)

【社説】ナチス式の憲法改正に言及した日本の極右政治家
朝鮮日報日本語版 2013年7月31日
 日本の麻生太郎・副総理兼財務相は先日行ったある講演で、日本における憲法改正の議論について「ドイツのワイマール憲法は(ナチスによって)誰も知らないうちに変えられていた」「この方法を参考にしてはどうか」という趣旨の発言をした。これは日本のメディアが29日に報じた。麻生氏は日本の戦犯らが合祀(ごうし)されている靖国神社への参拝問題についても「参拝をしないことがおかしなことであり、(普段から)静かにやればよい」との持論を展開している。

 ワイマール憲法とは、ドイツが第1次大戦で敗戦した直後に作り上げた同国で最初の民主主義憲法だ。この憲法は君主制を根幹としていたそれまでの帝国憲法を廃止し、国民主権の原則に基づく議院内閣制を採用していた。ところがナチスのヒトラーは1933年、ワイマール憲法に基づいてドイツ首相に選出されると、行政府が立法権を行使できる授権法を制定し、憲法そのものを有名無実化してしまった。このようにして絶対的な権力を手にしたヒトラーは、後に世界を戦争の悪夢に追い込んでしまったのだ。

 安倍首相をはじめとする自民党は、昨年12月の衆議院議員選挙と今年7月の参議院議員選挙でいずれも圧勝した。しかし日本の戦争放棄や交戦権の否定、軍隊保持の否定などを定める現在の平和憲法については今もなお改正することができず、非常に苦々しく思っているようだ。現在の平和憲法は日本の再武装を禁じているからだ。

 しかし自民党が改憲に向けて動き出すとしても、日本国内は決してこれを後押しするような状況ではない。まず自民党と連立政権を組む公明党が憲法改正に反対している。毎日新聞が先日行った世論調査によると、日本国民の51%が憲法改正に否定的な考えを持っていることも分かっている。韓国や中国などアジア諸国も、日本が平和憲法を改正して再武装することに反対している。

 このような状況の中、麻生氏が「ナチス方式の改憲」について言及した。麻生氏の発想は、平和憲法を見直すためにはヒトラーが使った超法規的な方法も辞さないというものだ。第2次世界大戦終戦後、世界各国はヒトラーとナチスを肯定的に捉える言葉や行動をタブーとしてきた。日本は第2次大戦でヒトラーのドイツと手を組み、ドイツがユダヤ人や欧州諸国に対して行った以上の虐殺や蛮行を、韓国や中国をはじめとするアジア各国に対して行った。このような国が本当に歴史を振り返ることができれば、いかなる場合でも「ナチスの手口を参考に」などと語るべきでないことくらいは分かるはずだ。それが政治指導者に求められる最低限の常識であり教養だ。

 首相経験者でもある麻生氏は現在の安倍政権でも実力者だ。麻生氏が今回のような発言を行い、そのことが今もなおニュースで報じられているようでは、今や日本の極右政治家たちに理性と常識は期待できないだろう。日本の政治家のレベルはなぜここまで落ち込んでしまったのか。また今の状況は今後も続くのだろうか。このままでは韓国をはじめとする隣国が、日本と向かい合って対北朝鮮外交や経済問題について話し合うことなどできるはずがない。「安倍の日本」は徐々に世界の普遍的価値と常識から懸け離れようとしているのだ。