2013年6月19日水曜日

生活保護法改悪で大学研究者たちが「緊急反対声明」


 100人を超す大学研究者たちが17日、生活保護法の改悪に反対する「緊急共同声明」を発表しました。

 政府はすでに生活保護費の生活扶助をこの8月から3段階で約670億円引き下げることを決めて今年度予算を組みました。その具体化として申請者を水際作戦で排除する内容を含む生活保護法の改悪案を提出し、衆院ではわずか2日間の審議で成立させ参院に送りました。
 生活保護法の本格的な改正(改悪)は50年ぶりということです。

 これまでは、福祉事務所がいろいろ理由を付けて生活保護申請のための書類を渡さなかったり、申請時に必要のない書類の提出が求めるなどして申請を受け付けない『水際作戦』は違法な行為とされてきましたが、今回の改正案では、保護申請にあたって書面による申請と資料の添付を義務づけて、結局これまで行われてきた『水際作戦』を正式に追認しました。
 衆院では自・公・民・「み」の協議で「特別の事情があるときは書面によらなくても良い」という但し書きをつけました。しかし原則として書類が必要だという点は変わっていません。

 また改正案では福祉事務所などが、①扶養義務者に対して資産や収入の状況についての報告を求めたり、②扶養義務者の雇用主や金融機関などに対し書類閲覧や資料提供・報告を求めることが可能になりました。
 つまり単に親族に通知がいくだけでなく、親族の収入や資産についての調査が、親族の働いている会社、親族が利用している銀行も巻き込んで行われることで、申請者を躊躇・萎縮させて申請件数を減らそうとするものです。

 声明は、生活困窮者は少数で、常に声を上げにくい当事者であり、「セーフティーネットは自由な社会のなかで生きる人々が、様々なリスクを抱えつつも、幸福に暮らすことを安心して自由に追求できるための必須の条件である」のに、生活保護を権利ではなく恩恵”、“施しとし、生活困窮者に恥と屈辱感を与え」、受給者に「劣等者の刻印」を押すことで、生活保護費を抑制することを目指していると述べています

 以下にしんぶん赤旗の記事と「緊急共同声明」を紹介します。
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生活保護改悪  大学研究者100人超が「反対」「緊急声明」を発表 
賛同者広がる
しんぶん赤旗 2013年6月18日
 100人を超す大学研究者らが17日、生活保護法の改悪に反対する「緊急共同声明」を発表しました。呼びかけ人の一人である三輪隆埼玉大学教員は「その後も賛同者が急速に広がっている」と話します。
 生活保護法改悪案について共同声明は、保護申請時の書類提出を義務付けて門前払いを横行させ、家族・親族による扶養を事実上の要件に変えて国の責任を転嫁するものだと指摘。受給者に対し、生活上の責務などを定め、尊厳を傷つけていると批判しています。
 総じて、生活保護を権利ではなく「施し」とし、生活困窮者に「恥と屈辱感」を与えて社会的に分断・排除するものだと告発。「すべての人びとの生存権に対する深刻な攻撃」だと強調しています。

 呼びかけ人は三輪氏のほか、井上英夫金沢大学名誉教授、木下秀雄大阪市立大学教授、後藤道夫都留文科大学名誉教授、笹沼弘志静岡大学教授、村田尚紀関西大学教授、森英樹名古屋大学名誉教授、布川日佐史法政大学教授。
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生活保護法の改悪に反対する研究者の緊急共同声明

いま国会で審議されている生活保護法改正案は、不正受給を防ぐためと称して
①生活保護申請時に資産・収入方法についての書類提出などを義務づけると共に、
②親族の扶助義務を事実上生活保護の要件としている。
これは自由で民主的な社会の基盤であるセーフティーネットとしての生活保護を脅かすものであって、私たちはけっして許すことはできない。
①については、悪名高い「水際作戦」による門前払いを合法化するものだとの批判を受けて、衆議院で「特別の事情があるときは」書類提出などを要しないと修正された。しかし、「特別の事情」を判断するのは「水際作戦」を進めてきたような行政の窓口である。政府は「運用はこれまで通り」として「門前払いにならないように各自治体に通知する」と言っているが、そうであるならば、口頭申請も可能であることを法文に明記すべきである。「特別の事情があるとき」の書類提出など免除を例外的に認めたからといって、書類提出などが原則となれば、門前払いが横行するのは目に見えている。
そもそも、このようは書類の提出は申請の後で済むことであり、裁判判例も申請は口頭でよいことを認めている。ギリギリの生活を迫られている人たちには、国連社会権規約委員会も勧告しているように、保護申請すること自体を容易にすることこそが切実に求められているのである。
また、②は衆議院においてもまったく修正されていない。親族関係は多様である。夫への通知・調査を怖れるDV被害者だけでなく、親族に「迷惑がかかる」ことから申請をためらう人は現在でも少なくない。家族・親族に厳しく「共助」を求めることは国の責任転嫁に他ならない。

さらにまた、今度の改正案は、③ジェネリック医薬品の使用義務づけ、保護受給者の生活上の責務、保護金品からの不正受給徴収金の徴収を定めている。保護受給と引き換えに生活困窮者にこのような責務を課すことは、性悪説を前提に保護受給者を貶め、その尊厳を傷つけるものである。

以上、この改正案は全体として生活保護を権利ではなく「恩恵」「施し」とし、生活困窮者に恥と屈辱感を与え、劣等者の刻印を押し、社会的に分断排除するものということができる。
生活困窮者は少数であり、常に声を上げにくい当事者である。しかし、セーフティーネットは、競争からこぼれ落ちた人々を救うためだけの制度ではない。それは自由な社会のなかで生きる人々が、様々なリスクを抱えつつも、幸福に暮らすことを安心して自由に追求できるための必須の条件である。セーフティーネットを切り縮めることは、自由で民主的な社会の基盤を掘り崩すものといわざるを得ない。これは生活困窮者だけの問題ではなく総ての人々の生存権に対する深刻な攻撃である。

しかし、衆議院では当事者である生活困窮者の意見はもとより、専門家の所見もまともに審議せず、また書類提出の要件化後の運用、「特別の事情」の基準なども精査せず、わずか2日で法案を参議院へ送った。政府はすでに、生活保護費の生活扶助をこの8月から3段階で約670億円引き下げることとし、今年度予算もこれを前提として成立している。参議院では予算に「合わせて」法案を審議するといった逆立ちをすることなく、上に指摘した問題点を解消するよう、慎重審議することを求めるものである。

2013年6月14日

(呼びかけ人8名 記載省略)