2013年6月12日水曜日

毎日新聞が自民改憲草案を特集

 
 自民党の憲法改正草案はもっと早くマスメディアで取り上げて欲しかったのですが、11日、ようやく毎日新聞が「特集ワイド:改憲草案をシミュレーションすると…」で取り上げました。
 毎日新聞は49日にも「特集ワイド:憲法96条改正に異論あり」を掲載しています。
 今回は条文の「公の秩序優先」、「家族の共助義務」や前文の「国を守る気概」などの4点に絞っていますが、広範な読者を対象とする記事なのでかなりソフトな記述になっています。したがって「改憲草案批判の論文」などに比べればやや物足らないところはありますが、「今こそ想像力が求められている」と結んだ記者の思いは伝わって来ます。

 以下に記事の要約版(全体を3分の2程度に圧縮)を紹介します。原文(3ページ構成)は下記のURLにアクセスしてご覧ください。
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(要約版)
特集ワイド:改憲草案をシミュレーションすると…
 デモ規制、「家族」の生活保護停止
毎日新聞 2013年06月11日

 自民党が昨年4月に発表した「日本国憲法改正草案」がもしもそのまま施行されたら私たちの生活や政治の有りようはどう変わるのか。三つの条文と前文から探った。【庄司哲也】

<第21条2項>公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない

 2日、東京都港区の芝公園で「6・2つながろうフクシマ!さようなら原発集会」があった。言うまでもなく現憲法21条が保障する「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」の下に認められた活動だ。しかし、自民党は冒頭の第2項を書き加えようとしている。
 「草案がそのまま施行されたら、こうした活動は真っ先に規制されるでしょうね」。ステージから下りてきた作家の落合恵子さんは不安を口にした。「実際、私たちの反原発活動の中から逮捕者が出ています。草案は自立した市民を否定することになりかねません」

 条文の「目的」という言葉に注目するのは、改憲草案に危機感を抱く「明日の自由を守る若手弁護士の会」の早田由布子事務局長だ。「『秩序を害する活動』ではなく『害することを目的とした活動』とすれば、目的の内容、つまり考えたことや思ったことを理由に禁止できるようになります」。同時に早田さんが危惧するのは、草案9条に盛り込まれた国防軍の役割に「公の秩序の維持」が含まれることだ。自民党はこれを「治安維持などの活動」と解説する。「デモや集会を鎮圧することが通常の任務となり、軍は自らの判断で出動することが可能になるのです」

<第24条>家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない

  母        「家族を大切にするっていいんじゃない。
  おじいちゃん うーん、いったいどこまでが家族なんじゃろうな。わしが子供の頃は一族みんなが家族じゃった。

 憲法学習会で、スタッフらが演じた寸劇のやりとりだ。現憲法24条が両性の平等を定めているのに対し、自民党が書き加えた条文は家族の尊重と責任を強調している。しかし「おじいちゃん」が首をひねるように、「家族」という言葉が親類縁者のどこまでを指すかは明確ではない。
 劇はこの後、いとこが行政側から「家族」がいると認定され、生活保護を打ち切られる場面へとつながる。「現状は国の責務である生活の扶助が、草案24条によって家庭の負担になっていく可能性があることを描きました」。監修した田場暁生弁護士は語る。

<第56条2項>両議院の議決は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければすることができない

 現憲法は、総議員の3分の1以上の出席がなければ議決だけでなく議事も開けないとしている。その「議事」の部分を省いてしまったのだ。
 「国会議員に優しい憲法になりますね」。「家族のあり方などに介入する一方、権力への縛りを緩めている。憲法の変質を表す一例です」と早稲田大法学学術院の水島朝穂教授は警鐘を鳴らす。

<前文>日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り……(略)

 「その意味を突き詰めていけば、徴兵制も可能になるというのが僕の解釈です」。そう指摘するのは「護憲派の語る『改憲』論」など憲法に関する著書が複数ある評論家の大塚英志さんだ。気概を持って国を守ることが国民の義務なら、国家が強制的に兵役に就かせていけない理由もない、というわけだ。

 自民党憲法改正推進本部起草委員会の中谷元委員長(衆院議員)は「草案21条2項が想定しているのは地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教のような危険な団体で、一般のデモや集会を規制するものではない。国防軍による治安維持活動も首相が指揮、統括すると明記して歯止めをかけている」と懸念説に反論する。さらに家族の役割を強調した24条については「社会保障を家族に押しつけるものではない」としながらも「権利が先行する現憲法下のシステムは社会的にも財政的にも限界に来ている。公助だけでなく自助、共助を前提とする憲法を国民自身の手でつくるべきだ」と訴える。

 大塚さんが言う。
 「改憲派の頭の中の地図に描かれているのは中国、朝鮮半島、米国だけ。反中、反韓、反北朝鮮の空気に支配されて憲法を変えようとしているのではないか。現憲法の随所にある『公共の福祉』という言葉が削られ、より国家や社会の利益が優越する『公益』『公の秩序』に置き換えられたりしていることも、その延長線上にあるのでしょう」

 私たちはどんな世の中にしたいのか。今こそ「想像力」が求められている。