2013年5月24日金曜日

「96条の会」呼びかけ文


 憲法改正手続きを定めた憲法96条の改正がこの夏の参議院選挙の争点に据えられようとしています。これまでは両院で総議員のそれぞれ3分の2の多数がなければ憲法改正を発議できなかったのに対し、これを過半数で足りるようにしようというのです。自民党を中心としたこうした動きが、「国民の厳粛な信託」による国政を「人類普遍の原理」として掲げる前文、平和主義を定めた9条、そして個人の尊重を定めて人権の根拠を示した13条など、憲法の基本原理にかかわる変更を容易にしようと進められていることは明らかです。
 その中でもとりわけ、96条を守れるかどうかは、単なる手続きについての技術的な問題ではなく、権力を制限する憲法という、立憲主義そのものにかかわる重大な問題です。安倍首相らは、改憲の要件をゆるめることで頻繁に国民投票にかけられるようになり、国民の力を強める改革なのだとも言っていますが、これはごまかしです。今までよりも少ない人数で憲法に手をつけられるようにするというのは、政治家の権力を不当に強めるだけです。そもそも違憲判決の出ている選挙で選ばれた現在の議員に、憲法改正を語る資格があるでしょうか。
 96条は、「正当に選挙された国会」(前文)で3分の2の合意が形成されるまでに熟慮と討議を重ね、それでもなお残るであろう少数意見をも含めて十分な判断材料を有権者に提供する役割を、国会議員に課しています。国会がその職責を全うし、主権者である国民自身が「現在及び将来の国民」(97条)に対する責任を果すべく自らをいましめつつ慎重な決断をすることを、96条は求めているのです。その96条が設けている憲法改正権への制限を96条自身を使ってゆるめることは、憲法の存在理由そのものに挑戦することを意味しています。
 私たちは、今回の96条改正論は、先の衆議院議員選挙でたまたま多数を得た勢力が暴走し、憲法の存在理由を無視して国民が持つ憲法改正権のあるべき行使を妨げようとする動きであると考え、これに反対する運動を呼びかけます。来る参議院選挙に向けて、96条改正に反対する声に加わってくださるよう、広く訴えます。

2013年5月23日 「96条の会」発起人
 樋口陽一(憲法学者・96条の会代表)青井未帆(学習院大学教授/憲法学)
  
   ― 中 略 ― (別書 発起人一覧表 添付) 
 
渡辺治(一橋大学名誉教授/憲法学・政治学)
以上 36名(2013年5月22日現在)
 
 
 
      発 起 人 一 覧 表

樋口陽一(憲法学者・96条の会代表)
青井未帆(学習院大学教授/憲法学)
阿久戸光晴(聖学院大学学長/憲法学)
新崎盛暉(沖縄大学名誉教授・元学長/沖縄近現代史・社会学)
蟻川恒正(日本大学教授/憲法学)
石川健治(東京大学教授/憲法学)
石村善治(福岡大学名誉教授・元副学長、長崎県立大学名誉教授・元学長/憲法学)
伊藤 真(弁護士・日弁連憲法委員会副委員長)
稲 正樹(国際基督教大学教授/憲法学)
上野千鶴子(東京大学名誉教授/社会学)
浦田賢治(早稲田大学名誉教授/憲法学)
岡野八代(同志社大学教授/西洋政治思想史・現代政治理論)
奥平康弘(憲法研究者)
桂 敬一(ジャーナリズム研究者)
姜 尚中(聖学院大学教授/政治学)
木村草太(首都大学東京准教授/憲法学)
小林 節(慶應義塾大学教授/憲法学)
小森陽一(東京大学教授/日本近代文学)
齋藤純一(早稲田大学教授/政治理論・政治思想史)
阪口正二郎(一橋大学教授/憲法学)
坂本義和(東京大学名誉教授/国際政治学・平和研究)
杉田 敦(法政大学教授/政治理論)
高橋哲哉(東京大学教授/哲学)
田島泰彦(上智大学教授/憲法・メディア法)
千葉 眞(国際基督教大学教授/西欧政治思想史・政治理論)
辻村みよ子(明治大学教授/ジェンダー法学・憲法学・比較憲法学)
中野晃一(上智大学教授/比較政治学・日本政治・政治思想)
西谷 修(東京外国語大学教授/フランス文学・思想)
長谷部恭男(東京大学教授/憲法学)
林 香里(東京大学教授/社会情報学・ジャーナリズム・マスメディア研究)
三浦まり(上智大学教授/現代日本政治・比較福祉国家研究)
水島朝穂(早稲田大学教授/憲法学)
山口二郎(北海道大学教授/行政学・政治学)
山内敏弘(一橋大学名誉教授/憲法学)
渡辺 治(一橋大学名誉教授/憲法学・政治学)
和田 守(大東文化大学名誉教授・元学長/日本政治思想史)