2013年5月19日日曜日

子どもの貧困率の高さは政治の責任

 日本では高所得者層と低所得者層の2極化が進み、一流大学への進学者が圧倒的に高所得者層の子弟で占められ、その一方で貧困層では大学進学自体が経済的に不可能という、貧困層の世代的な固定化も起きています。

 日本の子どもの相対的貧困率は2009年には15.7%と、2006年よりも1.5ポイントさらに悪化しました。1人当たりのGDPが高い先進諸国20ヵ国の中では日本は高い方から4番目で、北欧諸国に比べると日本の子どもの貧困率は約3倍、日本より子どもの貧困率が高いのは、アメリカ、スペイン、イタリアだけです。
 これら4ヵ国に共通しているのは、税金や社会保険料などを生活保護、児童手当などに回す機能=再分配機能が全く不十分(再分配後に貧困率が殆ど改善されていない)なことで、日本の再分配機能の不全度はギリシャ、イタリアに続いて下から3番目と言われます。
 北欧をはじめ英・仏・独・オーストラリアなどでは再分配が機能していて、貧困率が再分配後には半分乃至それ以下に減じています。
 日本の子供の貧困率の高さはそのまま「政治の貧困」率の高さに他なりません。

 「子どもの貧困対策法」(仮称)の制定に向けようやく自民、公明両党と、民主党がそれぞれ法案をまとめました
 18日付で朝日新聞が、また13日付で東京新聞がそれぞれ「子どもの貧困』をテーマにした社説を掲げましたので紹介します。

関連記事:2013年3月24日「民主党が子どもの貧困対策法案を提出へ」
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【社説】 子どもの貧困―あってはならないこと 
朝日新聞 2013年5月18日
 もし成立すれば、「貧困」という言葉を冠する初めての法律になる。その意義は大きい。「あってはならない状態にある子どもたち」の存在を日本社会が認め、国が政策課題として位置づけるからだ。 
 「子どもの貧困対策法」(仮称)の制定に向け、政治の動きが大詰めを迎えている。自民、公明両党と、民主党がそれぞれ法案をまとめた。 
 違いは「相対的貧困率」の扱いだ。これは、世帯所得をもとに、国民一人ひとりの所得を計算し、それを順番に並べ、真ん中の人の半分に満たない所得の人の割合をいう。 
 民主党が法律に、その削減目標を書き込むよう主張しているのに対し、自公両党は政府がつくる「大綱」に盛り込む程度にとどめる構えだ。 
 目標は、なるべく明確に示して欲しい。もっとも、この指標が十分な市民権を獲得できていないのも事実だ。そこをまず変えていきたい。 
 相対的貧困率は民主党政権時代の09年に初めて公表された。子どもの場合、最新の数値は15・7%。7人に1人が貧困となり、先進国の中では高い部類に入る。1人親に限ると5割強で、先進国で最悪水準だ。 
 腑(ふ)に落ちない人もいるだろう。この日本で、そんなに貧しい人たちが多いのか、と。 
 確かに、敗戦直後のように衣食住にも事欠く「絶対的貧困」はかなり解消された。 
 ただ、生活はできていても、社会の平均的な暮らしぶりにはとても届かない世帯が多いのは問題だろう。あまり違うと、教育や仕事、付き合いなどの社会参加が阻まれてしまう。 
 相対的貧困率は、所得について、とりあえず「真ん中の半分」というラインを決め、それ以下の人の割合を政策の指標にしようというものだ。 
 かつて日本は「一億総中流」といわれたが、過去にさかのぼった分析によると、相対的貧困率は全年齢、子どもとも上昇基調にある。 
 経済的な理由で進学できない子どもたちも少なくない。家庭環境という「自己責任」ではない要因で、才能を開花させる機会が奪われる。それが「あってはならない」ということに異論はないはずだ。 
 親の所得が低いと、子どもの学歴も低くなり、大人になっても低所得になる確率が高い。そんな貧困の連鎖、固定化は、社会の安定を失わせる。 
 この危機感を、連帯感へと昇華し、奨学金や様々な生活支援の充実につなげたい。

【社説】 子どもの貧困 対策法「元年」にしよう
東京新聞 2013年5月13日
 「子どもの貧困対策法」を議員立法で成立させる動きが本格化している。子どもを貧困から救い、希望の未来を与えるために取り組む法律だ。貧困率を下げる目標値を掲げ、実効性ある内容にしたい。
 日本の子どもの貧困は想像以上に深刻だ。世帯所得の中央値の半分未満の家庭で暮らす「相対的貧困率」は、経済協力開発機構(OECD)加盟など三十五カ国の中で九番目の高水準だ。二〇〇六年は14・2%、〇九年は15・7%。三年間で新たに二十三万人が貧困に陥った。日本全体では三百万人以上、六~七人に一人の子どもが、親の低所得によって経済的な不利にさらされている。
 貧困率が急速に高まったのは非正規雇用が増え、子育て世代の所得が減ったからだ。日本の平均世帯の所得はこの十年で約百二十万円も下がった。特にひとり親世帯の半数は貧困で、貧困率はOECDの中で最も高い。母子世帯の母親の収入が激減していることが大きい。女性の方が非正規の仕事に就く割合が高いからだ。
 大学など高等教育への進学をあきらめ、同年代が体験することをできない子がいる。激しくなる一方の格差社会でこの問題を放置すれば、貧困は固定化されるばかりだ。親から子への貧困の連鎖を断ち切らなくてはならない。
 当事者である貧困家庭の親や弁護士、学者らでつくる「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークは、早期の法制定を求め、(1)子どもの貧困率削減に数値目標を設定(2)大学・専門学校生らにまで支援対象を拡大(3)当事者や支援者・支援団体を対策計画の策定に参加させる-などを訴えている。
 英国では一九九九年、当時のブレア首相が「二〇二〇年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言、児童税額控除などの政策を打ち出し、段階的に貧困率を下げてきた。日本でも子どもの貧困と真正面から取り組むなら、給付型奨学金の新設をはじめとする教育支援や親への所得保障、就労支援などさまざまなことが可能なはずだ。
 生活保護法改正案の提出が今国会で予定され、生活保護費は制度始まって以来の引き下げにさらされようとしている。連動して子どもの貧困率や経済的困窮度が、現状以上に高まる懸念がある。この点でも、子どもの貧困からの解放を基本理念にした新しい制度をつくる意義は大きいはずだ。超党派の知恵を集めて折り合う点を探り、「子どもの貧困対策元年」をスタートさせたい。