2013年4月10日水曜日

生活保護費の切り下げは不当

 
 生活保護費を切り下げる政府の方針に対して生活保護問題対策全国会議が9日、「受給者の消費実態を反映していないのは不当」として、切り下げを前提とした13年度予算案の撤回を訴えました。
 政府案によれば生活保護費は8月から3年がかりで6.5%(670億円)も下げられます。これはもともと社会保障審議会の部会報告を厚労省が無視して進めたものとの批判があったのですが、その下げ率が消費者物価指数パソコンテレビ、冷蔵庫などの価格低下が大きく反映)の動向を機械的に当てはめただけで、生活保護世帯の実態に適合していないものであったことが、その後明らかにされました。
     ※ 1月29日付「社保審は生活保護基準の引き下げを言っていない」

 政府は来年の消費税アップを実現すべく、通貨発行量を2倍に増やすなどして強制的にインフレ・物価アップを起こそうとしています。そして企業に賃金アップを呼びかけて、それに応じる企業の事例(パフォーマンス)なども報じられましたが、そんなことのできるのはごく一部の大企業(や公務員)に限られていて、国民の大部分の収入は依然として低下が続いています。国民の収入が下がる中で税金が上がり、物価が年々高騰すればのようなことになるのか、火を見るよりも明らかです。そんな政権が長続きするはずもありませんが、問題は政権が交代したときに果たして元にリセットできるのかどうかです。
 こんな状況下で生活保護費を削減するなどは論外です。
 
 以下に関連の記事を紹介します。
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生活保護費:「切り下げは不当」NPOなどが政府方針批判
毎日新聞 2013年4月9日

 生活保護費を切り下げる政府の方針について、弁護士やNPO関係者らでつくる生活保護問題対策全国会議が9日、東京都内で記者会見し、「受給者の消費実態を反映していないのは不当」として、切り下げを前提とした13年度予算案の撤回を訴えた。
 
 厚生労働省は消費者物価指数の日常生活費相当分が過去3年で約5%下がったことなどを根拠に、生活費分の保護費を3年で670億円切り下げる方針。
 だが、日本福祉大の山田壮志郎准教授らの調査によると、受給者の大半は洗濯機や掃除機、冷蔵庫などの「生活必需品」を購入していなかった。山田氏は「実態を見ない切り下げは問題だ」と主張した。厚労省は「恣意(しい)性を排除し、制度の連続性を重視した結果だ」としている。【遠藤拓】

主張】 生活保護削減 根拠なき「1割カット」公約の暴走
社会新報 2013年36
 政府は、生活保護の生活扶助費を3年間で総額670億円削減しようとしている。この流れをつくったのは、1月の厚労省社会保障審議会生活保護基準部会が示した、子どものいる世帯や20~50代の単身世帯などで最も低所得の10%の層の消費実態が生活保護基準を下回るという検証結果だ。だが、同部会報告は単純に基準引き下げを求めているわけではなく、むしろ見直しが保護受給世帯や一般低所得世帯に及ぼす影響について「慎重に配慮されたい」としている。下位10%層には「生活保護基準以下の所得水準で生活している者も含まれることが想定される」と、いわゆる捕捉率(制度の利用資格がある者のうちの実際の利用率)の低さに言及するとともに、「貧困の世代間連鎖を防止する観点から子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある」とクギを刺してもいるのだ。しかし、政府の答えは、子どもの数が多いほど受給額の減少幅が大きいという「適正化」だった。
 
 そもそも部会の検証によれば高齢世帯では下位10%層の消費水準より生活保護基準の方が低いため、基準を引き上げなければならないはずなのだが、政府はその点を無視する。その上で持ち出すのがデフレであり、580億円は物価動向を勘案して削るのだという。
 けれども、これも大変苦しい。これまでの民間最終消費支出動向に基づく決定方式(水準均衡方式)によれば13年度は実質増の見通しなので引き下げにはならないはず、なぜ前回0・2%引き下げ時の04年の消費者物価指数ではなくガソリンなどの高騰で記憶される08年と比較しているのか、同年と比べた場合でも大きく下がったのはパソコンやテレビなどであって、困窮層の生活を直撃する光熱水費や食費、被服費などは逆に上がっている、などの疑問がすぐ浮かぶ。部会報告も、全所得階層の収入総額に占める下位10%層の割合の減少をわざわざ指摘しているのであり、賃金低下を含め、低所得者層の生活水準の相対的低下が進んでいるのに、デフレだからと最低基準まで下げるのは、まさに社会の底を抜く政策であり、デフレ脱却で好循環を、というアベノミクスの掛け声とも整合しない。生活保護との整合性への配慮を明記した改正最低賃金法も、これでは底上げどころか逆に機能してしまう。
 
 自民党の1割カット公約にもともと根拠などなかったことが、負の連鎖を招き寄せようとしているのだ。

主張】 物価上昇と生活保護削減 暮らしを壊す“あべこべ政治”
しんぶん赤旗 013年4月9日
 物価引き上げ目標を掲げる安倍晋三内閣のもとで、所得の増えない国民の暮らしが置き去りにされる危険が現実のものになっています。とくに収入の手段を失った生活保護受給者をはじめとする低所得者への影響は計り知れません。
 そんななか安倍内閣は過去最大の生活保護費削減を実行しようとしています。物価が上がれば、たとえ同じものを買ってもお金が余計にかかるのに、肝心の保護費が削られては、暮らしはいよいよ立ち行きません。こんな逆行した政治は許されません。
 
崩れる「削減」の理由
 安倍内閣の生活保護費削減の中心は、毎日の暮らしに欠かせない食費や光熱費など生活扶助費の削減です。審議中の今年度予算案に8月から3年かけて670億円も削る方針を盛り込みました。
 削減対象は生活保護世帯の9割以上にのぼり、その多くは子どものいる世帯です。月2万円もカットされる子育て世帯もあります。いまでも経済的理由によって勉学中断や進学断念に追い込まれる子どもが少なくありません。扶助費の大削減は、貧困が子どもたちの未来を奪う、本来あってはならない事態に拍車をかける暴挙です。
 扶助費の削減には、なんの道理もありません。厚労省は、削減する総額670億円のうち580億円分は、消費者物価指数の動向を機械的に当てはめ、“物価が下がった分が反映されていないからその分を削る”と説明しています。
 これは生活保護世帯の実態を無視したものです。価格が大きく下がったのはもっぱらパソコンやテレビなど経済的に余裕がある世帯が購入できる品目です。生活保護世帯にもっとも深く関係している食料品や衣料品などの下落幅は非常に小さく、光熱水費などは、むしろ上昇しています。現実からかけ離れた数字を根拠に削減を強行することはあまりに乱暴です。
 「アベノミクス」と称する経済対策によって生活保護世帯をはじめとする低所得世帯はすでに苦境に立たされつつあります。円安による輸入品価格押し上げは、この冬の灯油代高騰を引き起こし、各地で悲鳴があがりました。今後次々と実施される小麦や食用油など生活必需品の値上げラッシュ、電気代の引き上げが生活苦にますます追い打ちをかけるのは必至です。
 いまもギリギリの生活を強いられているのに、物価上昇によってさらに節約が迫られることになれば、食事や冷暖房を我慢するなどして、健康を害する生活保護世帯が続出しかねません。08年度の予算編成のとき厚労省は「原油価格の高騰」を配慮して生活扶助費削減を行いませんでした。現在は、当時よりも物価の上げ幅が大きくなろうとしています。それにもかかわらず「削減ありき」で強行するのは理不尽です。深刻な犠牲を生まないためにも生活扶助費削減の中止を決断すべきです。
 
改悪許さぬたたかいを
 生活扶助費削減は受給者だけの問題ではありません。扶助費基準が最低賃金や就学援助、住民税非課税など暮らしにかかわる制度の「目安」だからです。政府も保護費削減が各制度に波及することを認めています。急激な物価高騰もいわれるなか暮らしを支える制度を改悪することは、まさに“あべこべ”です。生活保護改悪を許さないたたかいが急がれます。