2013年2月21日木曜日

生活保護:申請拒否は違法の判決


 さいたま地裁20日、埼玉県三郷市に住んでいた女性(54)と家族(夫と二人の子供)の生活保護申請を拒否したのは違法として、保護費の不払いなどによる損害の賠償を命じる判決が出されました。 

この事では、市の職員が常識では考えられない程冷酷に対応しました。
2004年末、大黒柱の夫が白血病で倒れて入院したのを介護していた女性は、自らも度重なる心労から精神を病み精神科に通院するようになりました。派遣労働者の長男の月約10万円の収入ではとても家賃と入院費を払えないので、女性は度々三郷市役所福祉課に足を運びましたが、その都度職員から「国に頼るな。働きなさい」、「自分でどうにかするしかない」、「親族に助けてもらいなさい」等と生活保護の申請を拒否されました。 

夫が入退院を繰り返すなか長男も遂に20065月に失職しました。それであらためて申請に行ったときにも、「働かないのがいけない」などと言われて拒絶されました。しかしそのあと弁護士が同行すると職員の態度が一変し、申請が受理され月14万円弱の生活保護が決定しました。しかしなぜか住居費は不支給とされ、その直後から葛飾区への転居を職員が指示するようになりました。
それで女性は8月末に葛飾区へ転出することにしましたが、職員は「転居後は保護を受けないように」と念押ししたうえで母子を保護の対象から外し、その後まもなく保護を全面的に廃止しました。(全くの違法行為です) 

 そのあたりの経過を時系列的に示すと下記のとおりです。(原告弁護団資料より)
・2006年6月、弁護士が同行して生活保護申請し、受理。
・2006年7月14日、保護開始決定
    この直後から三郷市職員、妻に葛飾区への転居を指示
・2006年8月23日、葛飾区へ妻と次女が転居する旨の保護変更申請書に署名を強要。その際、妻に転居先の葛飾区で生活保護申請をしないよう指示。
・2006年8月28日、葛飾区へ妻と次女が転居。同2名を保護から外す。
・2006年9月17日、三郷市、夫の一時退院とともに保護廃止決定

 なおその後弁護士が交渉して2006年9月29日に葛飾区での生活保護受給が決まりました。 

 生活保護申請者に対するこのような対応が、この三郷市福祉課・職員にとどまっているとはとても思えません。
メディアはときどき生活保護の不正受給をあたかもそれが横行しているかのように取り上げますが、その額は全体の0.4%未満であるといわれています。それよりもいまも全国の市町村で行われている『水際作戦』=生活保護申請の受付拒否の方がはるかに重大な問題です。 

問題はもう一つあります。この訴訟は1審判決まで実に5年半が掛っています。この単純な事案の審理にどうしてこんなにも長い時間が掛るのでしょうか。日本の裁判のこの並み外れた悠長さではとても弱者の権利など守れません。
司法関係者にも是非共そうした視点に立って欲しいものです。
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生活保護:申請拒否は違法 埼玉県三郷市に賠償命令
毎日新聞 20130220 

 埼玉県三郷市に068月まで住んでいた女性(54)と家族が生活保護申請を拒否されたのは違法として、市に生活保護費の不払い分など約1045万円の損害賠償を求めた訴訟で、さいたま地裁(中西茂裁判長)は20日、市側が女性らの申請する権利を侵害したと認め、計約540万円の支払いを命じた。原告側の弁護団によると、申請権の侵害を認めた判決は全国初という。 

 判決によると、生活に困窮したこの女性は052月から約1年半、市福祉事務所で生活保護を申請しようと4回面接したが、「身内からの援助を確認するように」などと拒否され続けた。066月に弁護士が同行し、申請が受理された。 

 判決は「申請の意思があることを把握しながら、誤解を与える発言などの故意や過失により申請権を侵害すれば、申請を審査・応答する義務に反するため、賠償する責任がある」と指摘。その上で「市側は女性から収入増が見込めないと聞いていたのに、さらに身内からの援助を求めなければ生活保護を受給できないと誤信させた」などとして申請権の侵害を認めた。 

 三郷市は「判決内容を十分精査した上で、弁護士や関係機関などと対応を協議する」としている。 【狩野智彦】