2013年1月11日金曜日

憲法改正には内容の制約がある


 夕刊フジに「憲法改正論議 いかなる内容の改正も可能か」と題する若狭勝弁護士の解説記事が載りました。
その結論は、憲法「前文」の主旨からして、日本国憲法の三大原理である(1)国民主権 (2)基本的人権の尊重 (3)平和主義 に反する改正は出来ない(『これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する(憲法前文)』)ということです。
従って自民党の憲法改正案などを判断する場合は、そもそも上記の三大原理を依然として維持するのか、あるいは、三大原理からの脱却を試みているのか、にまず注目する必要があるとしています。

そして憲法改正の論議は拙速ではなく、 (1)透明性 (2)説明責任 (3)情報公開 に即して行うことが大事だと結んでいます。(自民党が作成した「自民党憲法改正草案 Q&A」で、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変更する理由として、カラスをサギに言いくるめるような記述をしていることは勿論この原則に反しています
1212日付「国防軍は米軍の無給の傭兵に」参照

ちなみに憲法「前文」は「本文」と同様に『法規範性』を持つとされ、狭義の『裁判規範性』(当該規定を直接根拠として、裁判所に救済を求めることのできる法規範)まで持つかどうかで有・無の議論があるということです。 

 以下に同記事を紹介します。
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憲法改正論議 いかなる内容の改正も可能か
弁護士 若狭勝 夕刊フジ 2013111 

自民党が2012年、憲法改正案を発表した。衆議院議員選挙で政権与党になったことから、憲法改正がにわかに現実味を帯びてきた。年の始めに、今後における着目点の1つである「憲法改正論議」につき視界良好としたい。紙幅の関係で総論のみになるが、その読み解き鍵は「『私』の目の黒いうちは改正にも限界がある」である。 

 いうまでもなく、憲法は最高の法規である。いわば「水戸黄門のこの紋所が目に入らぬか」のごとき威厳で、既存法律や法律案ににらみを利かせ、憲法に反する存在や内容を否定する。
 だが、かような性格を有する憲法といえども、価値観の変化が大きい現代社会では改正や追加が必要であろう。とすれば、改正要件を現状(国会議員の3分の2以上の賛成)から緩やか(国会議員の過半数)にすること自体はあり得る。その上で、いわゆる国民投票法(116月施行)が現実に整備されたことで、「有効票の半数以上による国民の承認」により、憲法改正がより可能にはなっていくであろう。 

 ただ、「国会議員の過半数」と「有効投票の過半数の国民承認」があれば、いかなる内容の改正も可能といえるか。「NO」である。というのは、現憲法には3つの原理がある。「国民主権主義」「永久平和主義」「基本的人権尊重主義」である。 

 現憲法の前文(前書きのようなもの)には、憲法のこうした原理に反するような憲法改正はできない(排除する)旨記載されている。つまり、この3原理を踏みにじるような改正は、もはや現憲法の許す「改正」ではなく、現憲法の破棄・新憲法の制定であり、いわば革命に類似する。いうなれば、現憲法(私)の目が黒いうちは3原理に反する改正はできないといえる。

 そこで、憲法改正論議の1つ目の注目点は、自民党などの憲法改正案が、そもそも3原理を依然として維持するのか、あるいは、3原則からの脱却を試みているのか、になる。

 次に、前掲の「有効投票の過半数で承認」であるが、これだと仮に有権者の6割しか投票しなかった場合、そのうちの過半数、つまり、有権者の3割承認で憲法改正が可能となる。国のゆくえを占う憲法がその程度の承認によって改正されるのでは国の危機である。先の衆議院議員選挙の投票率は6割を切った。とすれば、有権者の投票率を高める工夫(ネット選挙など)が憲法改正論議の前提となろう。 

 最後に、最高法規の憲法改正に拙速は禁物。さまざまな議論があろう。それだけに、(1)透明性(2)説明責任(3)情報公開の各価値観のもと、憲法改正論議では、国が、国民に対し、透明性を持って、幅広い意見を公開・展開し、分かりやすい説明が必要とされよう。 

 ■若狭勝(わかさ・まさる) 元東京地検特捜部副部長、弁護士。1956年12月6日、東京都出身。80年、中大法学部卒。83年、東京地検に任官後、特捜部検事、横浜地検刑事部長、東京地検公安部長などを歴任。20094月、弁護士登録。座右の銘は「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」