2013年1月17日木曜日

生活保護が切り下げへ


社会保障審議会・生活保護基準部会は16日、生活扶助の基準額が低所得者の一般的な生活費を上回るケースがあったとする検証報告書を発表しました。
基準部会は収入が国民全体の下から1割に当たる低所得者世帯の消費実態と生活扶助額を比較したということです。

安倍内閣・田村厚労相はかねてから生活保護費の引き下げを明言していましたので、これで支給水準が2013年度から引き下げられる見通しになりました。引き下げが実現すれば04年以来となります。引き下げ幅は13年度予算の編成過程で決められ、厚労相の告示で実施されます(法の改正は不要)。 

社会保障費が年々増大するのを抑制するために、そんな単純な比較でソロバンづくで弱者を切り捨てて良い筈はありません。そもそも「生活保護」は憲法25条によって国に課されている義務の筈です。
25条 [生存権、国の社会的使命]
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 
     2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 

今回、比較対照した低所得層(下から1割)の平均年収は120万円ということですが、一体国はそのレベルをどのように評価しているのでしょうか。物価は3%上昇すると言われ、消費税は近々3%アップしその次には更に2%アップするわけですから、最下層の人たちはまさに塗炭の苦しみを味わうことになります。どうせ体験するのは無理だとしても、その実態について少しでも調べてみる気はあるのでしょうか。
 
かつての小泉・竹中構造改革路線=国家戦略の中で、必然的に生み出されたワーキングプアの人たちはその後も増加し続けています。本来国には、そうした生活がギリギリ以下で将来への希望も持てない人たちが、何とかそこから脱出できるような政治を行う責任があります。それを放置して、最下層の人たちよりも生活保護者のレベルが少し上回っているからと言って、下げていいという理屈は成り立ちません。
あくまでも生活保護のレベルは健康で文化的な最低限度の生活を営むに足りるかどうかで決められるべきものです。

また親族による扶養義務を強めようという方針もあるようですが、親族と言っても長く離れて暮らしていたり、事情があって親族と疎遠な人もいる中で、国がそんな義務を強制できるのでしょうか。 

 以下に生活保護基準部会の報告に関する記事(東京新聞)と、「生活保護受給者から不安の声」(NHKニュース)、「生活保護費:切り下げ反対 市民ら抗議集会」(毎日新聞)の記事を紹介します。
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生活保護 厳格化を提言 社保審部会「低所得者と逆転」
東京新聞2013116 

 社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の生活保護基準部会は16日、生活保護の生活費に当たる生活扶助の支給水準(基準額)が低所得者の一般的な生活費を上回り、「逆転」するケースがあったとする検証報告書をまとめた。同時に、同審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」は自治体の調査権限強化などを盛り込んだ制度見直し案をまとめた。自民党が衆院選の公約に支給水準の原則1割カットを掲げたのを受けて、弱者の切り捨てにつながりかねない抑制圧力が強まった。
 生活保護は住宅、医療など8つの扶助で構成。そのうち生活扶助は食費や衣服、光熱費などを賄う。 

 基準部会は収入が全体の下から1割に当たる低所得者世帯(平均年収約120万円)の消費実態と生活扶助を比較した。試算によると、月約186千円を受給する夫婦と子ども(18歳未満)2人の世帯では低所得者の生活費約159千円より約27千円(142%)高かった。
 夫婦と子ども1人の世帯は85%、2050代の単身者世帯は17%高かった。一方、60歳以上は単身者、夫婦世帯のいずれも生活費のほうが高かった。 

 政府・与党は2013年度予算編成過程で、生活扶助を引き下げるか判断する。厚労省は「検証結果がそのまま基準に反映されるわけではない」としているが、議論に影響を与える可能性が高い。見直されれば04年以来となる。

 制度の見直しに関しては、政府は与党と調整し、今月末召集の通常国会に関連法案を提出したい意向だ。 

 報告書案は、資産と収入に限定されている福祉事務所の調査対象を「就労状況や保護費の支出」に拡大。受給開始から6カ月ごとに就労活動などを福祉事務所が確認し、就職のメドが立たない場合は職種や場所などの変更を促す。働く意欲が低く保護を打ち切られた人は3回目の申請から審査を厳しくする。
 扶養を断る親族には自治体に理由を説明する責任を課す。
 就労を促すため(1)積極的に就職活動をする人に保護費を加算(2)働いて得た収入の一定額を保護が必要なくなった後に支給する制度の創設-も提言した。 

世帯類型ごとの消費水準の比較

 

 

世帯類型

全保護世帯に占める割合)

現在の生活扶助の平均値

低所得世帯の消費実態を反映した適正額の平均値

夫婦と子供の1人の3

0.5 %

15.7 万円

14.3 万円

夫婦と子供の2人の4

0.4 %

18.6 万円

15.9 万円

60歳以上の1人暮らし

51.8 %

 7.3 万円

 7.7 万円

60歳以上の夫婦

4.2 %

10.6 万円

10.8 万円

2050代の1人暮らし

23.9 %

7.8 万円

7.7 万円

子供1人の母子家庭

3.5 %

13.9 万円

13.1 万円
      註.厚労省の資料から作成。各世帯の割合は2010年のデータを基に算出
(上表は読売新聞116日記事より)

 
生活保護受給者から不安の声
NHK NEWS web 2013116 

生活保護の受給者を支援しているグループの事務所には、受給者や生活に困った人から毎日、住居や生活費についての相談が寄せられています。
先月グループが行った電話相談では、2日間で全国からおよそ1000件の相談が寄せられ、生活保護費の引き下げに反対する声が相次いだということです。
中には、「仕事がないのに支給額がカットされると生活が成り立つか不安だ」とか、「今でもギリギリの生活で今後が心配だ」といった不安の声が寄せられていました。

支援グループは、16日の検証結果を受けて、厚生労働省の前で集会を開きました。集会には生活保護の受給者や支援者およそ70人が参加し、「生活保護の引き下げ反対」と声を上げて訴えました。

10年ほど前から生活保護を受けている都内の51歳の男性は「足や目に障害があり、仕事をすることができず生活保護のおかげで生活できている。基準額が引き下げられると食費を削るしかなく生活が立ち行かなくなる」と訴えました。

集会を開いた生活保護問題対策全国会議の稲葉剛幹事は「今回比較の対象となった収入が低い世帯の支出が低すぎるので、生活保護を引き下げるのではなく、こうした低所得者の収入を引き上げることが必要だ。支給の基準額が引き下げられると、住民税の非課税基準などほかの低所得者対策への影響もあり、貧困のスパイラルが起きるので、引き下げるべきではない」と話していました。
 

生活保護費:切り下げ反対 市民ら抗議集会
毎日新聞 20130116 

 生活保護の制度と水準の見直しを巡る議論が大詰めを迎えた16日、東京・霞が関の厚生労働省前では、市民団体やNPOが抗議集会を開き、生活保護費の切り下げ反対を訴えた。

 この日は社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の二つの部会が午前と午後にそれぞれ開催。合間の正午、厚労省前の路上に数十人が集結した。NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛代表理事は「受給者の生活の実態を見ないまま統計の操作だけで保護費を切り下げるのであればおかしい」などと訴えた。

 夕方には省内で記者会見もあり、生活保護問題対策全国会議が「新政権が物価を上げると明言する中で引き下げられると、低所得者の生活がダメージを受ける」とする声明を発表した。【佐藤丈一、遠藤拓】