2013年1月31日木曜日

自民改憲案「集会結社・表現」の不自由度は治安維持法以上 +


30日付の「澤藤統一郎の憲法日記」ブログに「自民党改憲草案と治安維持法」と題して、『自民党改憲草案の21条(集会、結社及び表現の自由)の2項は治安維持法の条文と瓜二つで、治安維持法よりもさらに禁止の範囲を広くしている』と批判する記事が掲載されました。 
ちなみに旧憲法(大日本帝国憲法)でも、居住及移転自由、信書秘密、所有権、信教自由、言論・著作・印行(出版)・集会及結社自由などは認められていたのですが、そのことごとくが「法律ノ範囲内ニ於テ」などの条件付きになっていました。
その結果旧憲法下で制定された治安維持法や治安警察法によって、それらの殆どが実質的に厳しく制限され、いわゆる民主勢力や宗教団体は大弾圧を受けたのでした。 
以下に同ブログの該当箇所を紹介し、併せて旧憲法の「第2章 臣民権利義務」の抜粋版を掲載します。
 なお青字のURLをクリックすると同ブログの記事にジャンプするので、全文が
ご覧になれます。
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自民党改憲草案と治安維持法
澤藤統一郎の憲法日記 20130130
(前 略)
自民党改憲草案21条1項と2項とは、次の文言である。
1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2項 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
1項は、現行憲法のとおり。これにつけ加えられる2項には、不吉な臭いが漂う。どこかで見覚えがあるはず。そう、治安維持法の条文と瓜二つなのだ。
1925年制定当時の治安維持法の条文は以下のとおりである。
「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ 十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」 
治安維持法は、「国体の変革」(天皇制打倒)、「私有財産制度の否認」(社会主義・共産主義)を目的とした結社を禁じた。自民党草案は、さらに広く「公益及び公の秩序を害する」結社を禁じる。さらに露骨に「公益・公秩を害する行為」の禁止までも定めている
なお、治安維持法が2度の大改正を経て、最高刑は死刑、目的遂行に寄与する行為までを処罰するようになったことは周知のとおり。
治安維持法は、成立当初は共産主義・社会主義運動、労働運動、農民運動への弾圧法規であった。しかし、「国体の変革」を目的とする結社の概念は、天皇神格化に抵触する教義をもつ宗教団体の弾圧法規となり得る。現に、1935年の第2次大本弾圧を嚆矢に、治安維持法は宗教団体弾圧に猛威をふるった。 
(後 略) 

大日本帝国憲法
第2章 臣民権利義務抜粋
22条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス
26条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ
27条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトナシ
2  公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
28条 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
29条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス
印行 : 出版 事務局


 

原発再稼働の動きが・・・


 安倍首相は30日の衆院本会議で、民主党政権がまとめた2030年代に原発ゼロを可能とする「革新的エネルギー・環境戦略」について、「具体的な根拠を伴わないものなので見直して責任あるエネルギー政策を構築する」と表明しました。

 また米原子力大手ウエスチングハウス(WH)の最高経営責任者は29日、「日本の原発は年内に2基の稼動が再開する可能性があり、いずれ、すべてではないが多くが再稼働するだろう」と述べたということです。WHは現在東芝の傘下なので、東芝を通じるかして政府筋からの情報を得たものと思われます。 

 ひところ大いに新聞紙面を賑わせた活断層の問題については、敦賀原発と完成間近の大間原発は活断層を理由に(再)稼働させないことにし、その代わりにその他の原発は再稼働させるというのが政府・原子力ムラの戦略だと、元原子力安全委員会専門委員の武田邦彦教授は述べていましたが、それがどうも真実味を帯びてきました。 

 一方原子力規制委員会は22日に、「直下に活断層が見つかっても、コンピューターによる解析で安全が確認できれば運転を認める」という原案を示して批判されましたが、29日に再提出した骨子案では、活断層を「40万年前以降の活動が否定できない断層」としていたのを、再び従来通りの「12万~13万年前」に戻して限定的に定義したということです。

 注目の大飯原発地下の活断層についてはまだ結論は出ていませんが、規制委は当初は(一般論として)「活断層の疑いが否定できなければ」再稼働はできないとしていたのに、いつのまにか「全員一致でなければ活断層とは認めない」の方向に傾いている感じがします。
 激甚な災害を引き起こしてしまった反省から設立された筈の規制委員会ですが、一体頼りに出来るのかどうか早くもあやふやになってきました。 

 以下に関係の記事を紹介します。
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日本の原発、段階的に稼動再開の見通し=米原子力大手CEO
ロイター通信 2013 01 30 

[プラハ 29日 ロイター] 東芝傘下の米原子力大手ウエスチングハウス(WH)のダニエル・ロデリック最高経営責任者(CEO)は、日本政府が国内原発の稼動を段階的に再開するとの見方を示した。
新政権の関係者や顧客と話をした結果、国内のムードが変わったと感じているという。プラハで記者団に述べた。

同CEOは「日本の原発の稼動再開をかなり楽観している。すべてではないだろうが、多くが再開されるだろう」と発言。年内に2基の稼動が再開する可能性があり、来年以降も再稼動する原発の数が増えるだろうとの見方を示した。

同CEOは「日本国内を見渡せば、準備が整っていることがわかる。安全向上に向けた措置が多数導入されており、津波対策も施されている」と発言。
「まだ時間はかかるだろうが、福島原発の事故の真相が明らかになり、ムードがかなり大きく変わった」と述べた。

政府は昨年12月、3年以内に全原発の再稼働の可否を判断する考えをあらためて示した。
 

消えた「40万年前」 規制委 活断層の定義後退
東京新聞 2013130 

 原発の設計で想定する活断層は、これまで通りの「12万~13万年前以降」に動いた断層なのか、より厳しい「40万年前以降」なのか-。地震や津波に対する原発の新しい安全基準を検討してきた原子力規制委の専門家チームは、29日の会合で骨子案を決めたものの、活断層の定義という重要な部分で結論を積み残した。 (大野孝志) 

 規制委は、活断層は「40万年前以降の活動が否定できない断層」と定義し、危うい断層を見逃さない姿勢を強く示す考えで、今回の骨子案でも明記される見通しだった。
 ところが、出てきた案は、基本的には従来通りの「12万~13万年前」のまま。上の新しい地層が残っておらず、過去の断層活動がはっきりしない場合に限り「40万年前以降までさかのぼって、地形や地質を調べる」とし、後退とも受け取れる内容だった。

 この日の会合で、名古屋大学の鈴木康弘教授(変動地形学)がこの問題を取り上げ「40万年前以降と明記するべきだ。不明確なままでは、こじれる。結論を出してほしい」と求めた。これまで電力会社は、比較的新しい地層だけを調べ、動いた証拠がないから活断層はない-と主張するケースが多く、断層が動く可能性を完全に否定できない調査に終止符を打とうとする発言だった。
 これに対し、規制委の島崎邦彦委員長代理は「基本的には、断層が長い間隔で繰り返し動くことはない。12万年前以降に動いていなければ、40万年前まで動いていないと考えていい」と一般論で応じた。今後つくるマニュアルに、活断層の判断や調査方法を具体的に書くという折衷案で幕引きを図った。

 決まった骨子案は、活断層の上に原発の重要施設があることを明確に禁じ、津波に対しては防潮壁や頑丈な水密扉で建屋を守るよう電力会社に求める内容。7月までに新しい安全基準となるが、肝心の活断層の定義があやふやなままでは、例えば、20万年前に動いた断層が見つかった場合はどうするのかなど原発の安全性の議論に火種を残したともいえる。
 
 
 

2013年1月30日水曜日

NY議会が旧日本軍慰安婦問題に対し非難決議


 29日、米ニューヨーク州上院は旧日本軍の従軍慰安婦問題について、「人道に対する罪」として非難する決議案を採択しました。下院でも同様の決議案が来週にも採択される見通しです。 

 非難決議自体は正当なものとして受け止める必要がありますが、その一方で、では広島・長崎への原爆投下や東京大空襲をはじめとする都市への無差別爆撃で数十万の市民を殺害したことは人道に対する罪に当たらないのか、もしそれを失念しているのであれば余りにも迂闊ですし、罪には当たらないというのであれば余りにも不当であり傲慢です。

 日本以外に対してもベトナムを新型兵器の実験場にした罪、第一次イラク戦争で上下水道施設を爆撃破壊したうえで飲み水を消毒する次亜塩素酸ソーダの輸出を禁止して、事後に数十万人の児童を中心とする病死者を出した罪などがあります。 

米国や米州議会にもしもそうした公平さと正当性を見ることが出来るならば、より価値のある決議になったであろうにと思われます。 

 以下に時事通信の記事を紹介します。
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慰安婦は「人道に対する罪」=NY議会が非難決議
時事通信 2013130 

【ニューヨーク時事】米ニューヨーク州上院は29日、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、「人道に対する罪」との表現を使って事実上、これを非難する決議案を採択した。

 決議案はニューヨーク市近郊の公園に20126月に「慰安婦の碑」が建てられたのを記念し、今月、上程された。「日本がアジアと太平洋の島々に対し、植民地支配と戦時占領を行った1930年代から第2次世界大戦の間、約20万人の若い女性が強制的な軍の売春である慰安婦システムに従事させられた」と指摘。慰安婦の碑は、人道に対する罪を思い起こさせる役割を果たすとしている。
 決議案を提出したトニー・アベラ議員は採択に先立ち、慰安婦問題を「20世紀最大の人身売買事件の一つ」と断じた。 

 下院にも同様の決議案が提出されており、来週にも採択される見通し。

 米国では20077月、慰安婦問題で日本の首相が公式声明の形で明確な謝罪をするよう促す決議が連邦議会下院で採択されている。
 
 

経済政策は意味が不明 首相の所信表明演説


 28日に行なわれた首相の所信表明演説は、野党から一様に「中身がない」、「内容が空疎」だと斬り捨てられました。翌29日の「植草一秀の『知られざる真実』」ブログに「『頑張った人が報われる』という胡散臭いフレーズ」と題する論評が載りました。 

植草氏ははじめに首相が演説では注意深く隠したものの、「7月参院選で改憲勢力が参院3分の2を確保すると憲法改正が一気に推進される」として、憲法「改正」の主な点を挙げたうえで、自民党が改正するとの意志を持つのなら「参院選までに徹底した論議を尽くさねばならない」としました。
①天皇元首化、国旗、国歌の尊重義務、②基本的人権と一切の表現の自由が「公益及び公の秩序を害しない」範囲に限定、③「緊急事態」下で国民の権利を制限、④国防軍として戦争遂行が可能
 外交・安保」については、日米同盟の一層の強化というのは対米従属に他ならず、国防軍の創設等は米国主導の戦争に日本を引き入れる道筋であるとし、総選挙で自民党を支持した国民は全有権者の16%に過ぎないことを踏まえて、国民は安倍政権の暴走を抑止しなければならない、としました。 

 首相が最も時間を割いた「経済政策」では、冒頭の「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円とも言われる莫大な国民の所得と産業の競争力が失われ、どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない、日本経済の危機」という意味がまず不明で、「頑張る人が報われる社会を目指す」という言葉が多用されるものの、うわべだけの言葉で終わりどのような意味で使っているのかが判明しない、としています。

経済のプロ中のプロである植草氏が意味不明とすることを、演説で堂々と述べるのも困った話です。正しいにせよ間違っているにせよ、せめてそれが判断できる内容(論理構成)を備えていて欲しいものです。 

首相がかつてもしばしば口にした「頑張る人が報われる社会を目指す」も全く同様です。私たちの記憶にあるのは、あの新自由主義の中で単に成功した人が自動的に『頑張った人』にされ、経済的弱者=社会的弱者が無条件に『頑張らなかった人』だと極めつけられた不条理ではないでしょうか。没論理性の極みと言うべきものでした。

 小泉(竹中)⇒安倍と続いたあの風潮が前回は安倍氏の挫折で中断したのは幸いでしたが、今度はどうなるのでしょうか。

 以下に植草氏のブログの要約版(中見出しや下線も含め事務局)を掲示します。なお同氏のブログは会員制のため、前半部しか一般公開されません。
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「頑張った人が報われる」という胡散臭いフレーズ
 植草一秀の『知られざる真実』 2013129

前半部要約版
(前略)安倍晋三氏は128日、所信表明演説を行った。(中略) 

◇参院選を終えると政治情勢は一変
 本年夏の参院選を終えると政治情勢は一変する。参院選直後には消費税大増税を最終決定するタイミングを迎える。また、参院でも改憲勢力が3分の2を突破すれば、憲法改正が一気に推進されることになるだろう。参院選までは牙を隠し、国民に受けの良い経済対策を前面に出す戦術が鮮明に浮かび上がる。 

◇憲法が「改正」される
 7月参院選で改憲勢力が参院3分の2を確保すると憲法改正が一気に推進される。(中略)自民党が昨年4月に公表した憲法改正草案である。 

 天皇を元首とし、国旗、国歌に対する尊重義務が明記される。
 (中略)「天賦人権説」が否定され、公益及び公の秩序に反する場合には基本的人権が制限を受けることが明記されている。

 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」についても、公益及び公の秩序を害する場合には、これを認めないとすることが条文に明記される。
 その運用によっては、「公益及び公の秩序を害する」との名目下で集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由が制限されることになる。

 さらに(中略)新たに「緊急事態」の章が設けられ、(中略)「緊急事態」の名の下に国民の権利が著しく制限される事態が生じることが懸念される。

 焦点のひとつの「平和主義」に関しては、自衛権が明確に肯定されるとともに、自衛隊が「国防軍」という名の軍隊に衣替えされ(中略)日本が戦争に加担し、戦争を遂行できる国に変質させられる。 

 (中略)国の基本法である憲法について、自民党がこれを改正するとの意志を持つなら、(中略)参院選までに徹底した論議を尽くさねばならない 

◇米国主導の戦争への道筋
 安倍氏の所信表明演説では、外交・安保について(中略)次のように述べた。「何よりも、その基軸となる日米同盟を一層強化して、日米の絆を取り戻さなければなりません。」
 (中略)その基本姿勢は対米従属として国民から強く批判されているものである。外交における対米従属、憲法改正における自衛権の明文化および国防軍の創設は、米国が主導する戦争に日本を引き入れる道筋である。
 総選挙で自民党を支持した国民は全有権者のわずかに16%に過ぎなかった。主権者国民はこの点を踏まえて、安倍政権の暴走を抑止しなければならない。 

◇もっとも時間を割いた経済政策
 (中略)安倍氏の演説を聞く限り、国民生活が改善される姿はまったく浮かび上がってこない。安倍氏は経済再生にこだわる理由について、まず、「長引くデフレや円高が、『頑張る人は報われる』という社会の信頼の基盤を根底から揺るがしていると考えるから」だと述べた。(中略)

 演説の冒頭部分で経済問題について総括した部分では次のように述べた。「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円とも言われる莫大な国民の所得と産業の競争力が失われ、どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない、日本経済の危機。」 日本経済の現状をこのように認識したうえで、「今こそ、額に汗して働けば必ず報われ、未来に夢と希望を抱くことができる、真っ当な社会を築いていこうではありませんか」とした。
結論として安倍氏が目指すべき方向として示した言葉は次のものだ。
 「世界中から投資や人材を惹きつけ、若者もお年寄りも、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての人々が生きがいを感じ、何度でもチャンスを与えられる社会。」

 どこに問題が所在するのか、その問題にどう取り組むのか。いずれにおいても安倍氏の発言は、焦点がずれていると言わざるを得ない。

 「頑張る人が報われる社会を目指す」という言い古された言葉が多用され、しかも、この言葉がかつてと同様に、単なるうわべだけの言葉で終わっている。これでは、小泉・竹中政治の二番煎じとしか言いようがない。安倍政権の経済政策がかつての小泉・竹中政治の延長上にあることを示す所信表明演説の中身である。
 
 「頑張った人が報われる」という言葉をどのような意味で使っているのかが判明しない。演説冒頭の「デフレと円高の泥沼から抜け出せず、50兆円・・・・日本経済の危機」(前掲の部分は意味不明である。
   50兆円というのは、日本の名目GDPがピーク時である1997年の523兆円から2011年には468兆円へと50兆円以上も減少したことを指しているのだろうか。これを「国民の所得と産業競争力が失われた」ことだと理解しているのだろか。そして、この現状を「どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない」状況だと言っているのだろうか。
   意味が分からない。(後略)
 
 
 

2013年1月29日火曜日

社保審は生活保護基準の引き下げを言っていない


 日弁連と43の弁護士会・連合会が「生活保護基準の引き下げ」に対し強い反対を表明しました。
日弁連会長声明では、社会保障審議会の部会報告は生活保護基準の引き下げに対してむしろ慎重な姿勢を示していると指摘し、報告書と矛盾する引き下げは厚生相の「裁量の逸脱・乱用」にあたると強調しました。 

 社会保障審議会の部会報告書に生活保護基準の引き下げへの言及がないことは、25日のダイヤモンドオンラインに掲載された“みわ よしこ”氏の論文「生活保護10%引き下げへの疑念・・・・」でも詳細に論じられています。 

 厚労省が作成した「生活保護の支給レベル」の評価は、ホームレスや今のところは餓死をぎりぎりで免れている人々までを含めた下位10%(そのなかに生活保護受給者自身が含まれている)の人たちの生活レベルと比較したものでした。ホームレスや餓死寸前の極貧層の人たちは当然国が救いの手を差し伸べるべき対象ですが、そうした極貧層まで含めたレベルと比較することが、憲法25条の理念に適う筈もありません。

    何より憲法で保障されている権利が、その時々の政権の方針や恣意的で不正確な統計などで曲げられるべきではありません。まして2015年以降には消費税を10%に上げ、物価は3%アップするわけです。生活保護費を8%アップする必要こそあれ、逆に10%近くも下げようという発想はどうしたら出てくるのでしょうか。
 昨年の消費増税の3党合意は社会保障を充実させるためだった筈です。それが蓋を開けてみると社会保障とは無関係な項目にはふんだんに使う一方で、肝心な社会保障費が逆に削減されるのでは、これほど国民をバカにした話もありません。一体どう言い訳をするのでしょうか。 

 以下にしんぶん赤旗の記事とダイヤモンドオンライン掲載の “みわ よしこ”氏論文の要約文(事務局で作成)を紹介します。
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生活保護基準引き下げ反対 日弁連と43弁護士会・連合会
     しんぶん赤旗2013128

 日本弁護士連合会(日弁連)と、全国52弁護士会のうち42の弁護士会と1弁護士連合会が、生活保護基準の引き下げに反対する会長声明や意見書を発表していることが、27日までに日弁連の集計でわかりました。
 日弁連は25日に山岸憲司会長の声明を出し、「生活保護基準の引き下げに強く反対する」と表明しました。

 会長声明は、政府が引き下げの根拠にしようとしている社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会報告は、生活保護基準の引き下げに対してむしろ慎重な姿勢を示していると指摘。貧困が親から子へと連鎖することを防ぐ観点から、同報告は子育て世帯に対する大幅な引き下げに「明確な警鐘を鳴らしている」としています。
 そのうえで、同報告と矛盾する引き下げを厚労相が行えば、厚労相の「裁量の逸脱・乱用があり違法であるとの司法判断がなされる可能性がある」と強調しています。

 鳥取県弁護士会は松本美惠子会長の声明(11日)で「憲法が保障する個人の尊厳および生存権が侵害されようとしている」と批判。
 東京弁護士会は斎藤義房会長の声明(10日)で「貧困と格差が拡大している今日であるからこそ、生活保護が積極的に活用されなければならない」と主張しています。
 
 

「生活保護10%引き下げ」への疑念 厚労省報告書から読み取れない保護費削減の根拠は?   http://diamond.jp/articles/-/31024 
 みわ よしこダイヤモンドオンライン 2013125
 フリーランス・ライター
(要約版)
 2013118日、厚生労働省・社会保障審議会の生活保護規準部会が報告書を取りまとめ、以後マスメディアは「この報告書を受けて、政府与党と厚生労働省は生活保護基準を引き下げる方向とした」と報道している。しかしこの報告書から「生活保護基準は引き下げられるべき」と読み取ることは可能だろうか? 

「生活保護基準引き下げ」という結論は報告書のどこにもない
 2013118日、社会保障審議会・生活保護基準部会(以下「基準部会」)の第13回が開催され報告書が取りまとめられ121日に公開された。
 報告書がほぼまとめられた第12回基準部会では、「引き下げとなると、たとえば『子どもに習い事を諦めさせる』というような影響が考えられるので、いきなり引き下げるというわけにはいかない」という議論もされていたという。第13回基準部会では提出された報告書案をほぼ追認し、若干の意見を追加する形で70分ほどで終わった。

 基準部会報告書には、生活保護基準を「引き下げるべし」とは全く示されていない。むしろ、「厚労省の今回の検証手法は十分か?」、「基準を見直す場合の多大な影響に十分な配慮をすべきではないか?」、「貧困の世代間連鎖を防止する観点からの配慮は十分か?」、「基準額の見直しによる影響が今後の検証に影響するのではないか?」といった内容の、「引き下げるという結論は慎重に」という意図の感じられる文言が、そこかしこに見受けられるのである。 

「働いたら得」な制度を「働いたら損」な制度へ?
また、生活保護の「勤労控除」について厚生労働省は廃止の方向としていることが201211月ごろより報道されている。「勤労控除」とは、勤労収入を得れば実質的に可処分所得が増える仕組みである。

報告書の10ページには、以下のような記載がある。
 「勤労控除については、現行の趣旨・目的に照らして、特別部会(生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会)の提言も踏まえ、現行の仕組みが勤労意欲を効果的に高めるものであるか議論した」、「就労にかかわる特別控除を見直すことについては、本部会として概ね異論はないとされたが、生活保護の基準と大きく関わる部分であり、仮に新たな就労促進のための仕組みが創設された場合には、施行後、その成果について検証していくべきものと考える」 ・・・・

ここからは「現行の仕組みでは効果は不十分な可能性がある」、「見直しは必要である」、「見直した場合の効果については検証が必要である」ということ以上に踏み込んだ意図を読みとるのは困難である。
にもかかわらず、勤労控除は廃止される方針なのである。 

「生活保護基準引き下げ」の根拠はいったい何なのか?
 この報告書を受けて、政府は「生活保護基準引き下げ」という方針を打ち出している。その根拠とされているのは、報告書の「検証」である。この検証により、生活保護基準と一般低所得世帯の消費実態が比較された。単に「多いか少ないか」という比較ではなく、「年齢に応じてどのように異なるか」、「世帯人員に応じてどのように異なるか」、「個人単位で消費する食費や衣類費と、世帯単位で消費する水道光熱費等では、どう異なるか」、「地域でどう異なるか」といった比較である。

 報告書8ページには、「【参考】基準額と一般低所得世帯の消費実態との比較」として、4枚のグラフが掲載されている。これらから筆者が確実に読み取りうることは、「必要な費用は、年齢によってはそれほど大きな違いがないらしい」、「食費・衣類費に関しては、3人家族で単身者の3倍になるわけではなく、2倍程度」、「水道光熱費に関しては、食費・衣類費ほどではないが、やはり人数に対応して増える」、「地域による差は、現在の生活保護制度で考えられているより少ないらしい」などである。
これらのグラフをどう考えれば、「生活保護基準を引き下げるべし」という話になるのか、やはり理解できない

以下のような解釈も可能だ。
 「就学前の子どもに対する生活保護費は、現在でも全然足りていない。生活保護世帯の乳幼児は、一般低所得世帯程度の水準ほどにも、幼児向けの絵本や教材や玩具を与えてもらえない。一般低所得世帯では、病気のリスク、働けなくなって収入を失うリスクに直結するから食費に対しては必要以上の節約は避ける。ただ単身者には食費が高くなりがち。3人家族が単身者の3倍ということはないが節約しても1.7倍程度は必要。でも生活保護基準は現在でもそれより低い。都市での生活コストは住居費をはじめとして大きいが、地方では付き合いその他に費用が必要だから田舎暮らしのコストは決して安くない」 ・・・・・
報告書には「引き下げるべし」とは全く書かれていない

見直しは、「合理的」な「根拠についても明確に」した上で、当事者たちへの「影響についても慎重に配慮されたい」と書かれている。
恣意的な解釈や安易な引き下げ方針を、強く戒める文言とも読める 

一般低所得者と比較しての統計的検証から結論を導いてよいのか?
 今回の生活保護基準検証で示されたグラフは、「一般低所得層の生活を示す数式が作れて傾向が示せました」という以上のことを意味していない。その数式や、そこから示される傾向は、どの程度妥当なのか。どの程度、実態を反映しているのか。そこまで読み取ることはできない。

報告書の9ページに以下のような記載がある。
 「具体的にどのような要因がどの程度消費に影響をおよぼすかは現時点では明確に分析ができない」、「特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界」、「これが唯一の手法ということでもない」と、この検証の妥当性や適応範囲について限界があることを述べ、「今後、政府部内において具体的な基準の見直しを検討する際には、(中略)検証方法について一定の限界があることに留意する必要がある」とある。
この文言から、「この検証方法を使って、ゆめゆめ『結論ありき』で結論を導いたりしないように」というメッセージが読み取れる 

生活保護世帯との比較対象にホームレスなどの困窮者を含めてよいのか
今回の検証で生活保護世帯との比較に用いられた「一般低所得世帯」は、「第1十分位」の層=「全国民のうち、世帯あたり年収の低い方から10%」であり、ここには生活保護世帯・生活保護世帯より所得の少ない世帯と生活保護世帯より所得のやや多い世帯のすべてが含まれている。

 生活保護基準を検証しようとするならば、第1十分位から、生活保護水準以下の世帯を除去して検討する必要がある。そうしなくては、ホームレスや今のところは餓死をぎりぎりで免れている人々も含めれば、当然、「生活保護基準のほうが上」という結論にしかならない
 ところが今回の検証ではそれを除外する操作はされなかった。OECD各国では第1五分位=下位20% が主流だという。

報告書からは、極めて控えめにではあるが「そうした層を含めてはいけなかった」と読み取れる
 
 
 

2013年1月28日月曜日

「沖縄の怒り頂点」 オスプレイ反対 東京行動


27日 日比谷野外音楽堂で、沖縄県民の本土復帰後最大規模の東京行動である「NO OSPREY 東京集会」が開かれ、沖縄県のほとんどの首長と本土在住の沖縄県人など約4,000人が参加しました。
集会後には銀座通りをパレードして、沖縄の訴えを沿道にアピールしました。 

28日には代表団が防衛相、外相、沖縄担当相と面談します。
首相については、政府側は官房長官が対応するとの方針ですが、実行委は首相面談が実現するよう働きかけています。
この集会と要請で日米両政府に対し、軍普天間飛行場の県内移設断念も訴えます。 

 以下に沖縄タイムスと琉球新報の記事を紹介します。
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オスプレイ反対、銀座パレード「沖縄の怒り頂点」
沖縄タイムス 2013127 

 「オスプレイ配備に反対する沖縄県民大会」実行委員会による「NO OSPREY東京集会」が27日午後、都内の日比谷野外音楽堂で行われた。県内外から約4000人が参加(主催者発表)。昨年の99県民大会の決議を踏まえ、米軍普天間飛行場に配備されたオスプレイや嘉手納基地への配備計画のいずれも直ちに撤回することなどを強く求めた。 

 集会で、実行委共同代表の翁長雄志市長会会長は「沖縄が日本に復帰しても、06%の面積に74%の米軍専用施設を押しつけられ、基本的人権は踏みにじられ、今回のオスプレイの強行配備で怒りは頂点に達している」と沖縄の現状を説明し、「安保体制は日本全体で考えるべきだ」と訴えた。

 参加者らは集会後、外堀通り約2キロをパレードし、オスプレイ反対を広く沿道にアピールした。
 

オスプレイ撤回要求 東京日比谷で反対集会 
普天間移設 県内断念も 県民大会実行委
電子版号外
琉球新報 2013127 

 オスプレイ配備に反対する県民大会実行委員会は27日午後、東京都の日比谷野外音楽堂で配備撤回を訴える東京集会を開始した。28日の政府要請に合わせ、実行委のほか県内全市町村長代理を含む)、議会議長、県議ら約150人が沖縄から東京に赴いた。沖縄の本土復帰後、最大規模の東京行動となっている集会と要請で日米両政府に対し、軍普天間飛行場の県内移設断念も訴える。 

集会には沖縄からの要請団のほか、本土在住者でつくる県人会や学生、一般在住者、反基地団体メンバーらが結集し、会場を埋めた。
壇上で、主催者を代表して喜納昌春共同代表(県議会議長)があいさつ。市町村代表として翁長雄志県市長会長、城間俊安県町村会長、永山盛廣市議会議長会長、中村勝町村議会議長会長が登壇した。

 その後、平良菊県婦人連合会長が、両政府への建白書(要請書)を読み上げ、「危険な飛行場に、開発段階から事故を繰り返し、多数に上る死者を出している危険なオスプレイを配備することは、沖縄県民に対する『差別』以外の何ものでもないと強調。その上で、オスプレイ配備の即時撤回、今年予定されている新たな12機の普天間配備中止、嘉手納基地へのCV22オスプレイ配備計画撤回、天間飛行場を閉鎖・撤去し県内移設断念―を日米両政府に求めた。 

参加者は集会後、銀座をパレード沖縄の訴えをアピールする。
 

沖縄の痛み 日本全体で考えて 首長や県議、銀座行進
東京新聞 2013128 

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)への新型輸送機オスプレイの配備撤回などを求め、沖縄の四十一市町村の首長ら代表者が二十七日、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂で反対集会を開いた。全国各地の市民を含め約四千人が参加し、「過重な負担を強いられている沖縄の痛みを、日本全体で考えるべきだ」と訴えた。

国土面積のわずか0・6%の沖縄に、米軍専用施設の74%がある。県や県内全四十一市町村が反対し、昨年九月に県民大会を開いたが直後の同十月にオスプレイが配備された。
 
集会には、四十一市町村の首長ら代表者のほか、県議、沖縄選出の国会議員らも党派を超えて集まり、沖縄の怒りが、東京でも爆発した。集会で、沖縄県議会の喜納昌春議長は「昨年の県民大会で沖縄の熱いNOを訴えたが、(政府は)県民の圧倒的な声に耳を貸さず強行配備した。新政権に直訴していく」と発言。オスプレイの安全性を懸念し、沖縄県以外でも、米軍の飛行計画に入る地域は危険にさらされるとした。
那覇市の翁長雄志市長は、安倍晋三首相が昨年の衆院選で訴えた「日本を取り戻す」というキャッチフレーズに触れ、「この中に沖縄は入っているのか。日米安保体制は国民全体で考えてほしい」と訴えた。

市町村の代表者たちは二十八日に、首相らを訪ね、オスプレイの配備撤回や普天間飛行場の閉鎖、県内移設断念などを求める「建白書」を手渡す。 

普天間飛行場がある宜野湾市の安次嶺美代子さん(66)は「日本は沖縄に甘えている。普天間は住宅地に近く世界で一番危険な基地。危険と隣り合わせの沖縄の生活を知ってほしい」と訴えた。東京都武蔵野市の緒方久子さん(64)は「沖縄の問題は日本全体の問題。沖縄だけに押しつけてはならない」と語った。 

集会後、参加者は「政府は沖縄の声を聞け」などと声を上げながら、銀座を行進した。


 

生活保護の減額が決まりました


 政府は生活扶助費を3年間で8.3%減額することを決めました。2004年以降最大の減額幅で受給世帯の約96%の世帯で受給額が減ります。
世帯の類型別の月当減額幅は、「20代~30代の夫婦と4歳の子供」:16,000円(9.3%)、「40代の夫婦と小学生、中学生の子供」:20,000円(9.0%)、「70代以上の夫婦」:15,000円(13.2%)(いずれも「都市部」の場合)となります。 

各種給付金や負担軽減を受けられる所得基準は、多くが生活保護の水準を参考に決められているために、この減額は受給者だけでなく一般低所得層にも及ぶもので、例えば現在156万人が受給している就学援助も、多くの自治体は「所得が生活保護の基準より10%多い世帯まで」などと生活保護を基準に決めているので、37万人が就学援助を受けられなくなるということです。
 また、最低賃金も同法で「生活保護との整合性に配慮する」とされているので、引き上げられるどころか下げられる可能性の方が強く、国民全体の生活レベルを切り下げる悪循環の始まりにもなり兼ねません。 

そもそも2015年度以降には、物価は3%もアップし、大衆課税である消費税は10%に上がっている惧れがあります。そうした政府の方針と過去のデフレ傾向を口実にしたこの大幅減額は、一体どういう風に整合するというのでしょうか。 

東京新聞と毎日新聞の記事を紹介します。
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生活保護 受給世帯96%で減額
東京新聞 2013128 

 政府は27日、生活保護のうち食費などの生活費に充てる生活扶助費を20138月から3年間かけて、段階的に国費ベースで約850億円(約83%)削減すると決めた。生活保護受給世帯の約96%の世帯で受給額が減る。保護費の引き下げは2004年度以来で、過去最大の減額となる。
 麻生太郎財務相と田村憲久厚生労働相が会談し、合意した。 

 生活扶助の基準額を約670億円(65%)、年末に支給する期末一時扶助を70億円削減。さらに、受給者が働いて得た収入から仕事に関する経費を差し引く特別控除廃止で約110億円カットし、全体として約83%削減する。
 扶助費は年齢や世帯人数、居住地域などに応じて計算するため削減率も世帯ごとに異なるが、減額の幅は10%を限度とする。 

 厚労省の試算によると、東京23区や名古屋市など、都市部の40代夫婦と子ども2人(子どもは小・中学生)の世帯の場合、受給額は現在の月約222千円から15年度には2万円減り、約202千円になる。都市部の70代以上の夫婦は114千円から109千円に減る。厚労省はこのほか、医療扶助の見直しや就労支援などで13年度で340億円程度の削減を目指すとしている。 

生活扶助基準見直しの具体例
20代~30代の夫婦と4歳の子供
 
現  在
20138
2015年度以降
都市部
172,000
167,000
156000
町村部
136,000
133,000
128,000

40代の夫婦と小学生、中学生の子供
 
現  在
20138
2015年度以降
都市部
222,000
216,000
202,000
町村部
177,000
172,000
162,000

70代以上の夫婦
 
現  在
20138
2015年度以降
都市部
114,000
112,000
109,000
町村部
90,000
88,000
88,000

 

生活保護減:一般低所得者に影響 就学援助打ち切りも
毎日新聞 20130127 

 日常生活費分の生活保護費「生活扶助」が、3年で7.3%減らされることが決まった。影響は受給者だけでなく、一般低所得層にも及ぶ。各種給付金や負担軽減を受けられる所得基準は、多くが生活保護の水準を参考に決められているからだ。田村憲久厚生労働相は27日、他制度への影響を和らげる意向を示したものの、内容はまだ見えてこない。【遠藤拓、鈴木直】 

◇最低賃金上げ、難しく 「整合性」の大義失われ
 「生活保護の切り下げが影響するなんて」。東京都内に住む40歳代の女性は、中学3年生の次男分として受けている年十数万円の就学援助がなくなるかもしれないと知り、ため息をついた。家計は次男の週1500円程度の交通費にも圧迫されるのに「もっと切り詰めることになるのか」との不安が頭をよぎる。 

 就学援助は家計の苦しい世帯に小中学校の学用品代などを支給する制度だ。11年度の受給者は95年度(約77万人)の2倍、156万人超。対象者について多くの自治体は「所得が生活保護の基準より10%多い世帯まで」など生活保護を基準に決めている。つまり、生活保護が下がると打ち切られる世帯が出てくる。民主党政権で内閣府参与を務めた湯浅誠氏によると、生活扶助の1割減で37万人が就学援助を受けられなくなるという。
 困窮者の子どもが再び貧困に陥る「貧困の連鎖」も指摘される。「全国学校事務職員制度研究会」代表の竹山トシエさん(66)は「就学援助を受けずに親が借金を重ね、子供が不登校になることもある」と懸念する。 

 生活保護基準の引き下げは最低賃金にも影響する最低賃金法は「生活保護との整合性に配慮する」と定めているからだ。本来は最低賃金が生活保護費より低い地域の賃上げを促すための規定だが、生活保護費が下がれば賃上げの「大義名分」が失われかねない。
 時給換算で849円の最低賃金に対し、保護費は854円−−。最低賃金より保護費が高い「逆転」が生じている6戸道府県の一つ、神奈川県。横浜市でアルバイトをかけもちする女性(25)は「今は若さで乗り切っているが、10年後も続ける自信はない」。収入は月15万円前後で蓄えもない。最低賃金を1000円以上にするよう国に求める訴訟を起こした原告の一人だ。

 昭和女子大の木下武男特任教授(労働社会学)は「非正規雇用労働者の多くは収入が生活保護と同水準かそれ以下。生活保護を切り下げて最低賃金との整合性を取るのはおかしい」と話す。 

 04年度の保護費減額時は住民税を払わねばならない世帯の所得基準も下がった。非課税世帯は推計約3100万人おり、税の免除を受けられなくなる人が多数出かねない
 さらに、各種保険料、医療費などの負担軽減措置の多くは課税基準に連動している。新たに課税され、医療費や保育料も増える人が出てくる。ただし、市町村の国民健康保険は課税基準と連動させないことを決めたため、「影響はない」(厚労省国民健康保険課)という。