2012年12月4日火曜日

「東電の賠償計算おかしい」と農薬会社が提訴


 福島第一原発事故で福島県内の主力工場が約1ヶ月間操業できなくなったために約17300万円の損害が生じたとして、3日、農薬会社が賠償を求める訴訟を起こしました。
東電が示した賠償の枠組みでは、生じた損害の6割程度しか補償されず、「東電の賠償金の計算方法がおかしいことを訴訟で明らかにしたい」としています。 

放射能汚染被害の賠償についての係争は跡を絶ちませんが、最大の問題は、東電には市民生活や企業活動を根底から破壊した加害者であるという自覚がなく、賠償を請求されても自分があたかも優位な裁定者であるかの如くに振る舞っていることにありそうです。 

あるゴルフ場が訴訟を起こし、「芝生から毎時2~3マイクロシーベルトの高い放射線量が検出され、営業に障害が出ているので、責任者である東電が除染をすべきである」と主張したのに対して、東電は「原発から飛び散った放射性物質は『無主物』であって東電の所有物ではない。したがって東電は除染に責任を負わない」と拒否しました。
そして東京地裁は「ゴルフ場の営業に支障はなく、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針を踏まえた賠償請求をすれば、早期に賠償を受けられる」という、非現実的な理由のもとにゴルフ場の訴えを却下したので、ゴルフ場側は即日控訴しました。 

また別のゴルフ場も、放射能で使えなくて荒れ放題になったゴルフ場の再開のために、13万㎡の芝生の貼り替え費用など19億円を請求したところ、東電から13万円なら払えるという回答があったということです。
あまりの不誠実さに地元メディアが取り上げたところ、直ぐに東電から13000万円の間違いであったと連絡が入ったそうですが、それでも請求額とは雲泥の差があります。
そこで仕方なく原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)に和解を申し込んだものの、何度協議しても東電が不誠実で埒が明かないので、訴訟に踏み切ったということです。 

 以下に関連の記事を紹介します。
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「東電の賠償計算おかしい」被災農薬会社が提訴
読売新聞 2012123 

 東京電力福島第一原発事故で福島県大熊町内の主力工場が約1ヶ月間操業できなくなったために損害が生じたとして、東証2部上場の農薬製造会社「アグロカネショウ」(東京都港区)は3日、約17300万円の賠償を東電に求める訴訟を東京地裁に起こした。
 訴状などによると、同工場の生産機能を県外に移転するまで製造がストップしたが、東電が示した賠償の枠組みでは、生じた損害の6割程度しか補償されないという。同社側は、「東電の賠償金の計算方法がおかしいことを明らかにしたい」としている。

 東京電力の話「訴状が届いておらず、回答を差し控えたい」
 

東京地裁 ゴルフ場の仮処分却下「営業に支障ない」
スポニチ新聞 20111114 

 福島第1原発事故で休業を余儀なくされたとして、福島県二本松市の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」が、ゴルフ場の維持に必要な経費など約8700万円の支払いを東京電力に求めた仮処分で、東京地裁は14日までに、申し立てを却下する決定をした。1031日付。同倶楽部は14日、決定を不服として即時抗告した。 

 福島政幸裁判長は、ゴルフ場で検出された空間放射線量は「学校の校庭での活動を控える基準を下回っている」として「ゴルフ場の営業に支障はない」と判断。東電が原子力損害賠償紛争審査会の中間指針を踏まえて受け付けを始めた賠償請求手続きなどを利用すれば「早期に賠償を受けられ、当面の負担も回避できる」とした。
 放射性物質の除去も「現状で除去を命じた場合、国の施策に抵触する恐れがある」と退けた。

 東電は「個別案件にかかわり、回答を差し控える」としている。
 

プロメテウスの罠 第4部 東電は述べた「放射性物質は無主物である」
朝日新聞 連載記事 20111123日から127

       (中 略)

第1章 だれのものでもない
 放射能はだれのものか。この夏、それが裁判所で争われた。
 20118月、福島第一原発から約45キロ離れた二本松市の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」が東京電力に、汚染の除去を求めて仮処分を東京地裁に申し立てた。
 ――事故のあと、ゴルフコースからは毎時2~3マイクロシーベルトの高い放射線量が検出されるようになり、営業に障害がでている。責任者の東電が除染をすべきである。
 対する東電は、こう主張した。
 ――原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電は除染に責任をもたない。
 答弁書で東電は放射性物質を「もともと無主物であったと考えるのが実態に即している」としている。
 無主物とは、ただよう霧や、海で泳ぐ魚のように、だれのものでもない、という意味だ。つまり、東電としては、飛び散った放射性物質を所有しているとは考えていない。したがって検出された放射性物質は責任者がいない、と主張する。
 さらに答弁書は続ける。
 「所有権を観念し得るとしても、既にその放射性物質はゴルフ場の土地に附合(ふごう)しているはずである。つまり、債務者(東電)が放射性物質を所有しているわけではない」
 飛び散ってしまった放射性物質は、もう他人の土地にくっついたのだから、自分たちのものではない。そんな主張だ。
 決定は111031日に下された。裁判所は東電に除染を求めたゴルフ場の訴えを退けた。
 ゴルフ場の代表取締役、山根勉(61)は、東電の「無主物」という言葉に腹がおさまらない。
 「そんな理屈が世間で通りますか。無責任きわまりない。従業員は全員、耳を疑いました」 
        (後 略)
 

19億円の汚染ゴルフ場の芝張り替え費用に13万円提示の非常識
週刊プレイボーイ3620120820 

今年3月、「いわきプレステージカントリー倶楽部」(福島県いわき市・休業中)の総支配人、合津純一郎氏(43歳)は東京電力の担当者から、「芝の張り替え費用として、13万円を支払う用意があります」と告げられた。 

高濃度のセシウムに汚染され、荒れ放題となったゴルフ場内の芝はもはや復元不能で、全面張り替えするしかない。専門業者にその費用を聞くと、19億円という数字の入った見積書が返ってきた。ゴルフ場の芝面積は13万平方メートル。13万円だと、芝の張り替え費用は1平方メートル当たり1円の計算だ。合津氏が呆れる。
「福島市がセシウム汚染のひどい渡利地区の公園を除染したんです。そのときの公園内の芝の張り替え予算が1平方メートル当たり3000円。東電の提示額はその3000分の1にすぎません。東電は自社でゴルフ場も経営している。芝の張り替えにいくらかかるか、自社のゴルフ場に聞けばすぐにわかるはずなのに、いったい何を考えているのか」 

その後、地元メディアがこのやりとりを聞きつけて報道すると、東電の対応は一変。
「報道直後、担当者から『計算違いの額を伝えてしまった』という連絡が入ったんです。1平方メートル当たり1円ではなく、1000円の間違いだったと。ちょっとニュースになっただけで、賠償額が一挙に1000倍になったというわけです。当事者間の交渉では常識外れの安い賠償額を提示しておいて、そのことが報道で明るみに出ると急に増額してくる。しかも、1000倍になったとしても13000万円。とても芝の張り替え費用には足りない。東電の誠意を疑います」(合津氏) 

昨年10月、合津氏は原発ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)に和解の仲介を申し立てた。ただ、東電の対応はいつもおざなりで、まじめに賠償に応じる気配は見えなかった。合津氏が続ける。
「こちらはわらにでもすがる思いで、いわき市から東京都内のADRまで出かけている。もちろん、交通費も自腹です。なのに、東電は回答書面を毎回、調停当日に提出してくる。これではADRの弁護士さんは、その日初めてその書面を目にするわけで、仲介のやりようがない。交渉時間の大半は弁護士さんが東電の回答書面を読んで、その内容を検討することに費やされてしまうわけですから」

3度目の調停を終えた419日、合津氏はADRへの和解申し立てを取り下げた。
「何度交渉しても時間のムダと悟ったんです。これまで東電から受け取った仮払金は250万円だけ。営業再開を信じて待っている従業員の生活もある。営業損害や清掃費用など、東電が認めている賠償金をまずは受け取り、残りの除染費用や芝張り替え費用などの賠償は裁判で争うことにしました」
だが、ゴルフ場側が勝てる保証はない。昨年10月、やはり放射能汚染で休業中の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」(福島県二本松市)が東電に除染費用などを求めた裁判で、東京地裁は「原発から出た放射性物質は無主物で、東電の所有物でない。したがって賠償の責任はない」という東電の主張を認め、ゴルフ場の訴えを退けている。同じ理屈が採用されると、勝訴はおぼつかない。
「正直、裁判がどうなるか、予測はつきません。でも、こうなったら、もう法廷で争うしかない。そう覚悟しています」(合津氏)

あまりにも非常識な主張と対応を繰り返す東京電力。そこには、放射能汚染の被害者に対する誠意はまるで見えない。(取材・文/姜 誠、撮影/井上賀津也)