2012年12月3日月曜日

日米地位協定の改定はいつ 沖縄の悲願


日米地位協定は、在日米軍人(家族や軍属も含む)の日本での法的地位を定めたもので、1960年にアメリカ軍に極めて有利な内容で締結されましたが、以後一度も改定されていません。
例えば公務中に起きた犯罪(ひき逃げ等)の裁判権は日本側にはなく、公務外での犯罪でも犯人が基地内に逃げ込めば日本の警察は逮捕することが出来ず、起訴するまでは身柄も引き渡されません。本人の取り調べが出来ない状態で、起訴に持ち込むことがかなり困難であることはいうまでもありません。
10月に米兵2人による強姦致傷事件が起きたときに、仲井真知事が日米地位協定を「諸悪の根源」だと怒った実態はこういうものでした。 

協定締結後50年以上が経つのに、歴代の政府は改定はおろか改定の協議すらも一度も行っていません。外務省が、地位協定を一部でも変更すれば日米安保体制全体の見直しにつながりかねない、ことを懸念しているからだと言われています。
とはいえ米兵犯罪の多発の中では、さすがに何のアクションもとらないというわけにはいかないので、「運用改善」の対米要求を行い若干修正された部分はありました。しかし、それはあくまでも米側が「好意的考慮を払う」という位置づけでした。 

2日の毎日新聞電子版に、「日米地位協定 沖縄の悲願、改定いつ」と題する特集記事が掲載されました。

 以下に紹介します。記事は6分割で掲示されたやや長いものです。添付図・添付資料等は原文でご覧ください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
特集:日米地位協定 沖縄の悲願、改定いつ
毎日新聞 20121202 

沖縄で日米地位協定が問題となった主な事件・事故

(添付図・添付資料は省略)

 在日米軍人、軍属、家族の日本での法的地位を定めた日米地位協定は、米兵らの犯罪を巡ってたびたび問題化してきた。10月に沖縄県で起きた米兵2人による集団強姦致傷事件で仲井真弘多知事が「諸悪の根源」と怒りをあらわにしたように、協定の抜本的改定は地元の悲願だ。一方、かつて改定に積極的だった民主党は、政権の座につくと現実路線にかじを切り、日米の「政治の壁」はなお高い。地位協定の問題点と、改定に向けた課題を探った。 

◇米兵容疑者、引き渡しは米側裁量
 日米地位協定17条は、米兵らの公務中の犯罪は米側に、公務外の犯罪は日本側に優先的裁判権(第1次裁判権)があると定めている。ただ、公務外でも容疑者の身柄が米側にあれば、起訴時まで米側の身柄拘束を認めている。
 959月に沖縄県で起きた米兵3人による小学生女児暴行事件では、米側が先に容疑者の米兵3人の身柄を拘束した。沖縄県警は身柄引き渡しを請求したが、米側は地位協定を盾に拒否した。

 沖縄の反基地感情の高まりを受け、日米両政府は同年10月、殺人や強姦などの凶悪事件に限って起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮を払う」とする運用改善で合意した。044月には、取り調べ段階での米軍捜査官の立ち会いを条件に、範囲をすべての犯罪に拡大した。
 外務省日米地位協定室によると、運用改善に基づき、日本側の要請に対して起訴前に身柄が引き渡されたケースはこれまでに5件。しかし、02年に沖縄県具志川市(現うるま市)で起きた女性暴行未遂事件では、沖縄県警の身柄引き渡し要請を米側が拒否した。
 地位協定の運用を改善するだけでは、米側の裁量で日本側の捜査が左右される実態は変わらない。池宮城紀夫(いけみやぎとしお)弁護士は「米軍関係者は基地の中に逃げ込めば捕まらないと思っている。公務外でも米側が先に身柄を押さえれば日本側が逮捕できない。地位協定は不平等だ」と指摘している。 

◇ヘリ墜落、検証できず
 日本側の捜査の壁になるのは、日米地位協定だけではない。地位協定そのものに規定がなくても、付属事項が日本側の捜査を制約することがある。
 048月、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に隣接する沖縄国際大学に米軍大型輸送ヘリが墜落した。市街地の中心にある普天間飛行場の危険性を象徴する事故だった。
 墜落直後、米側は危険を理由に現場を封鎖した。沖縄県警は米軍に現場検証と機体の差し押さえを求めたが、米軍は無視して機体を撤去。県警は6日後に、事故機のない現場検証に着手した。

 地位協定17条の付属合意議事録では「日本は米軍の財産について、捜索、差し押さえ、検証を行う権利を行使しない」とされている。また、地位協定実施に伴う刑事特別法でも、米軍財産の捜索、差し押さえには米軍の同意が必要だ。
 当時、現場で消火活動にあたった消防士は「治外法権のように現場が米国側に占拠された。ここは日本ではないとつくづく感じた」と悔しがる。
 日米両政府は事故翌年の05年、在日米軍の航空機が基地外で事故を起こした場合の現場警備などに関するガイドラインを決めた。事故現場を日米共同で管理し、現場周辺の立ち入り規制を日本の警察が担当することになったが、現場検証など日本側の捜査権を認める規定は盛り込まれていない。 

◇「安保」配慮、動かぬ政治 

◇女児暴行事件後も
 1960年締結の日米地位協定は、前身の日米行政協定(1952年調印)の時代から刑事裁判権などを巡って不平等性が再三指摘されてきた。だが、日米両政府間で改定が具体的な政治日程に上ることのないまま、50年以上が経過している。国内に駐留する米兵絡みの事件・事故は後を絶たないのに、政治の腰は重い。 

在沖縄米兵、軍属、家族の交通事故件数と犯罪被検挙人数の推移

(添付図・添付資料は省略) 

 959月の米兵による小学生女児暴行事件を発端に、地位協定の見直しを求める声が強まった。
 しかし、自民、社会、さきがけ3党連立政権のもとで、村山富市首相(当時)は否定的な考えを表明。河野洋平副総理・外相(同)も「現行の協定で事件の解明はできる」と述べ、捜査に支障はないとの認識を示した。
 当時、日米両政府は、冷戦終結後の同盟関係の新たな意義を模索していた。その最中に地位協定を一部でも変更すれば、日米安保体制全体の見直しにつながりかねないことを外務省は懸念した。
 しかし、沖縄県民を中心にした反基地感情、反米感情の高まりを無視できず、日米両政府は同年10月、刑事裁判手続きの運用を改善することで合意。凶悪犯罪(殺人、強姦)の場合は、日本が容疑者の起訴前の身柄引き渡しを求めれば、米側は「好意的考慮を払う」ことになった。
 その後、米兵による犯罪や米軍基地にかかわる環境汚染問題などが発生するたびに改定論議は再燃したが、それでも日米両政府は動かなかった。044月の運用改善で全ての犯罪で起訴前の身柄引き渡しが可能になったとはいえ、裁量は米側にある。 

◇自民の議連、休眠
 自民党では02年、地位協定改定を目指す議連が発足したが、「現在は活動していない」(同党関係者)という。 

◇政権交代後、民主も沈黙
 民主党は野党時代の083月、社民党、国民新党と共同で日米地位協定改定案をまとめた。日本側が容疑者の起訴前の身柄引き渡しを要請した場合に米側が同意することや、環境保全条項の新設などが主な内容。党の沖縄政策の基本となる同年7月の「沖縄ビジョン」にも「抜本的な地位協定改定を早急に実現する」と明記した。
 ところが、政権獲得が視野に入ってくると、オバマ政権との関係構築を最優先する姿勢が目立ち始める。「09年政策集」は「地位協定の改定を提起する」とトーンダウンし、そのまま09年衆院選のマニフェストに引き継がれた。このとき、岡田克也幹事長(当時)には米側から「改定は困難」との意向が伝わっていたという。

 鳩山由紀夫元首相は党幹事長だった084月、要請行動で国会を訪れた沖縄県議に「抜本的改正ができるようにしたい」と述べるなど、改定に前向きだった。しかし、首相就任後、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡って米国との関係を悪化させ、改定を持ち出す機会を失った。
 運用改善については民主党政権でも一定の前進があった。1111月には、在日米軍で働く民間米国人(軍属)が公務中に起こした事件・事故でも、米国が訴追しない場合は、米国が同意すれば日本で裁判が行えるようになった。ただ、政府が同年2月の答弁書で「政権発足以降、改正交渉は行っていない」と認めた通り、民主党政権が米側に改定を提起した形跡はない。

 玄葉光一郎外相は1127日の記者会見で、「(改定を)完全否定しているわけではない」と前置きしたうえで、「現実に地元の皆さんのためになる方法を考え、より実のある対応をとっている」と理解を求めた。
 今回、民主党は衆院選マニフェストで「日米地位協定の運用改善をさらにすすめる努力を行う」と軌道修正した。政権復帰を目指す自民、公明両党は公約で地位協定に触れていない。衆院選後の政権の枠組みにかかわらず、米国との改定交渉が進む可能性は低そうだ。 

◇せめぎ合い、世界各地で
 世界各地に駐留軍を派遣している米国は、駐留先の国とそれぞれ地位協定を結んでいる。ただ、ドイツでは日米地位協定にない米軍基地への立ち入り権や米軍の環境保全責務が規定されているなど、内容は締結先によって異なる。 

◇立ち入り権を追加−−ドイツ
 東西冷戦期、東側の共産圏と向き合う旧西ドイツは、米国にとって欧州の最重要拠点だった。だが、91年のソ連崩壊時にドイツ国内に約20万人いた米兵は現在、約6万人まで削減された。

 米国など北大西洋条約機構(NATO)諸国との「NATO軍地位協定」(51年)と、それを補う「ボン補足協定」(59年)が駐留軍兵士への対応を定めている。兵士の公務時間中の犯罪は軍の派遣国(米国など)に裁判権があり、公務外での行為は軍の受け入れ国(ドイツ)が裁くのは日米地位協定と同様だ。ただ、公務外でも容疑者の身柄が米側にある場合は、ドイツへの身柄引き渡しは原則として判決時と規定され、起訴後の引き渡しとする日米地位協定よりドイツ側に厳しい内容になっている。
 一方、93年のボン補足協定の大幅改定で、ドイツは国内法を適用できる範囲を拡大し、基地内へのドイツ当局の立ち入り権や駐留軍による環境保全の責務を認めさせて、騒音被害や土壌汚染から地域住民を守る姿勢をより明確にした。
 最近は凶悪犯罪の発生が少なく、地位協定見直し要求などの目立った動きは出ていない。 

◇身柄確保策を拡大−−韓国
 韓国では、朝鮮戦争の休戦(53年)以降、大規模武力紛争の発生抑止のため、北朝鮮との軍事境界線に近い地域などに米軍が配備され、現在は陸軍部隊を中心に約28500人が駐留している。

 韓国政府の統計によると、昨年は単純な交通事故なども含めて在韓米軍絡みの犯罪が298件、今年も6月までに134件起きている。昨年は米兵による10代韓国人女性への強盗強姦事件が相次ぎ、地位協定の運用改善や韓国側の司法権拡大などを求める声が高まった。このため米韓両政府は今年5月、韓国側が容疑者の身柄を起訴前でも確保できる新たな措置をとった。

 米韓地位協定では、凶悪犯罪の場合には韓国側による起訴まで、それ以外の犯罪は判決確定後まで、米側が容疑者を拘束できる。起訴前でも韓国側が身柄引き渡しを求めれば「好意的に考慮すべき」だと規定されているが、引き渡し後に「韓国司法当局が24時間以内に起訴しなければ釈放」という条項もあり、身柄確保は事実上不可能だった。5月の米韓地位協定合同委員会でこの条項の撤廃などに合意し、現在は「凶悪犯罪に限るという制限もついていない」(外交通商省担当者)という。 

◇免責特権を拒否−−イラク
 03年のイラク戦争で米軍の占領統治下に置かれたイラク政府は、0811月に米軍と地位協定を締結した。
 イラクでも米兵による殺人や強姦事件が発生し、米軍の攻撃や誤爆で多数の民間人が犠牲になった。04年には首都バグダッド近郊のアブグレイブ刑務所でイラク人捕虜に対する虐待事件が発覚し、反米感情が一気に拡大した。市民は米軍の駐留を治安悪化の根源とみなすようになり、「主権回復」がイラク政府の宿願になった。
 このためイラクの場合、11年末までの駐留米軍完全撤退が明記されるなど、「異例」の規定が多かった。非番時に指定区域外で重大な罪を犯した米兵の第1次裁判権をイラク側に認め、身柄引き渡しなどの規定を6カ月ごとに見直すことも盛り込まれた。米軍の軍事作戦はすべてイラク政府の同意が必要で、米兵はイラク当局の令状なしにイラク人を逮捕・拘束できない。

 11年末の撤退期限を前に、米軍とイラク政府は一部部隊を残留させる方向で協定の延長交渉を始めたが、米軍が残留の絶対条件にした兵士の免責特権をイラク政府が拒絶し、決裂した。 

==============
 この特集は政治部・中田卓二、吉永康朗、朝日弘行、ベルリン支局・篠田航一、ソウル支局・西脇真一、カイロ支局・前田英司、西部報道部・佐藤敬一が担当しました。
============== 

 ◆戦後沖縄で起きた米軍関連の主な事件・事故◆
年・月
5110 米軍戦闘機から那覇市の民家にガソリンタンクが落下、全焼し親子ら死亡
559 嘉手納村(現嘉手納町)で米兵が6歳の女児を暴行し殺害
596 石川市(現うるま市)の宮森小学校に米軍戦闘機が墜落し児童含む17人が死亡、210人が重軽傷
6112 具志川村川崎に米軍ジェット機が墜落、2人死亡、4人負傷
6212 嘉手納村屋良の民家に米軍輸送機が墜落。住民2人死亡
656 読谷村で米軍機からトレーラーが落下し、下敷きになった少女が死亡
685 読谷村で米兵が女性を暴行し殺害
 ・11 嘉手納基地内に大型爆撃機B52が墜落。住民4人負傷
7012 コザ市(現沖縄市)で米兵の交通事故を発端に市民が70台以上の米軍車両に放火。コザ騒動に
724 北中城村で米兵が女性を殺害
 ・8 宜野湾市で米兵が女性を殺害
 ・12 コザ市で米兵が女性を殺害
733 コザ市で米兵が飲食店の女性を殺害
 ・12 西原村(現西原町)に米軍ヘリ墜落
7410 名護市辺野古で米兵が女性を殺害
828 名護市辺野古で米兵が女性を殺害
832 金武町のキャンプ・ハンセン内で米兵がタクシー運転手を殺害
851 金武町の民家で米兵が男性を殺害
955 宜野湾市で米兵が女性を殺害
 ・9 県北部で米兵3人が小学生女児を車で拉致して暴行
9810 北中城村で女子高生が米兵の車にひき逃げされ1週間後に死亡
016 北谷町で米兵が女性に暴行
035 金武町で米兵が女性に暴行
048 宜野湾市の沖縄国際大に米軍ヘリ墜落
0810 名護市で米空軍兵4人が乗った軽飛行機が墜落、炎上
0911 読谷村で男性が米兵の車にひき逃げされ死亡
1210 米兵2人が女性を暴行