2012年12月5日水曜日

イラクの新生児に異常が急増 04年以降


 イラクのファルージャにおいて、0406年に生まれた新生児の30%に心臓疾患、神経系疾患などの異常が、07年以降は54%の新生児に同様の異常が見られたことが、イラクと米国の研究者の聞き取り調査と毛髪分析などで明らかになりました。 

◇爆弾から飛散した鉛と水銀が原因
障害を持つ新生児の毛髪からは、障害を持たない新生児の5倍の鉛含有量と6倍の水銀含有量が確認されました。いずれも米軍が使用した爆弾から飛散し、それが水や食料に混入し、母体を通して新生児の体内に入ったものと推定されています。
 ベトナム戦争で米軍が撒いた枯葉剤で新生児に異常者が沢山出た悲劇の再来です。着弾時の爆発で人間を殺傷する機能に加えて、戦後に生まれる次世代の人間をも、高い比率でその一生を不幸に陥れるというようなことは許されません。 

 ファルージャは米軍らのイラク占領後も反米運動を続けたために、044月には町への出入りを制止した状況下で爆撃を受け、また同年11月にはテロリスト掃討を名目にした米軍からの攻撃を受けて、約3000人の住民が殺害されたと言われています。 

◇ウランの影響は・・・
 記事によれば、ウランについては障害を持った新生児と持たない新生児との間で毛髪の含有量に差がなかったことから、原因物質から除外されていますが、これは鉛や水銀などとは異なり、ウランは新生児の細胞内に取り込まれることで異常を来すのではなくて、母体がウランでアタックされた結果DNAが損傷されて、そのために新生児に異常が発現するものなので、説得力のある説明ではありません。 

 正式な核攻撃を受けたわけではないイラクにおいて、ウランの影響が注目されている理由は、湾岸戦争では米英軍によって320トンの膨大な劣化ウランが使われたことによります。ウランの影響は極めて深刻です。 

◇劣化ウラン弾
採掘された天然ウランは濃縮の過程で、核兵器や原子力発電所用の燃料となるウラン235(U235)(天然ウランの1%に満たない)と、ウラン238(U238)(天然ウランの99%以上)に分離されますが、ここで大量に発生する不要のウラン238を「劣化ウラン」と呼びます。

劣化ウランの比重は鉄の約二・五倍もあるため、砲弾の弾芯に用いると強い威力を持ち頑丈な戦車でも貫通します。そして貫通時の衝撃で高熱を発して燃焼し、その時に含有ウランの70%~20%が酸化ウランの微粒子となって大気中に飛散し、それを吸引すると肺などにたまり、がんなどの健康障害を引き起こすと言われています。 

◇劣化ウランによる健康被害
米国防総省や英国防省は、劣化ウランによる人体や環境への影響を認めておらず、米国では劣化ウランによる健康被害を論じることはタブ-になっています。
しかしインターネット記事によれば、1999年夏までに、湾岸戦争に参加した退役米軍人579000人のうち、25万1000人(約43%)が退役軍人省に治療を求め、 18万2000人(約31%)が病気や傷害に伴う「疾病・障害」補償を請求したということです。病名は白血病、肺がん、腎臓(じんぞう)や肝臓の慢性疾患、気管支障害、慢性的けん怠感、皮膚斑点(はんてん)、関節痛などです。
そして00年までに少なくとも9600人以上が亡くなり、湾岸戦争後に生まれた彼らの子どもたちの間には、先天性障害を抱えた子も多く、同じ症状は当然湾岸戦争参加の英国兵にも表れているということです。
米国は、人体に影響はないという建前から劣化ウランの危険性を兵士に対して伝えず、何の防備もしなかったためですが、これらによってもイラクのあらゆる戦闘地域がウランで汚染されていることは明らかです。 

イラク人の被害は、勿論米軍人の被害を大幅に上回っている筈です。前線で辛うじて生き延びた兵士ばかりでなく、市民、とりわけ子どもたちの間に白血病やリンパ性がんなどさまざまながんが増加し、先天性異常を持つ新生児の誕生も目立ちました。 

 以下に毎日新聞の記事を紹介します。
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イラク:新生児の異常急増 04年以降
毎日新聞 20121203 

 【ロンドン小倉孝保】イラク中部ファルージャで米軍による激しい軍事作戦が行われた04年以降、障害児の出生割合が急激に高まっている可能性があることがわかった。イラクや米国の研究者らが国際医療科学誌に論文を発表した。爆弾などに含まれた毒性金属が母体を通して新生児体内に蓄積された可能性を指摘している。 

 論文は「シュプリンガー」の916日号に米ミシガン大の環境毒素学者、サバビエアスファハニ氏やバスラ医科大のサバック講師ら6人が連名で発表した。イラクの戦争被害については南部バスラなどで劣化ウラン弾の影響が疑われる事例が報告されているが、ファルージャでの出生異常に関する科学的報告は初めてとみられる。 

 2010年にファルージャ総合病院に出産や産後治療に訪れた計56家族を対象に1991年から2010年までの20年間について、夫婦のほか双方の親や兄弟など親族も含めた出産状況を聞き取ってまとめた。

 その結果、91年から20年間に生まれた新生児は計202人。9100年では新生児58人のうち障害があったのは1人(1.72%)、0103年では19人のうち2人(10.5%)だったのに対し、攻撃が激化した0406年では33人のうち10人(30.3%)、07年以降は92人のうち50人(54.3%)に障害があった。04年以降」の障害児出生割合(48%)は「03年以前」(3.89%)の約12。主な障害は心臓疾患、神経系疾患などだった。

 また、新生児と両親の毛髪を分析した結果、障害を持つ新生児は障害のない新生児に比べ鉛含有量が5倍、水銀含有量が6だった。ウラン含有量に差はなかった。親の毛髪の鉛、水銀の含有量にも大きな差はなかった。 

 障害児出生割合が高まった原因として、米軍が使用した爆弾などの毒性金属が水や食料から母体を通して新生児の体内に入った可能性を指摘している。爆弾や銃弾には、水銀や鉛などの毒性金属が含有されているという。 

 ただ、ファルージャ総合病院で過去の出生記録が発見できず聞き取りで出生状況をまとめたため、過去にさかのぼるほど記憶違いが大きくなる可能性や、障害を持つ新生児の出生をより強く記憶している可能性もある。

 サバビエアスファハニ氏は毎日新聞に「論文は、ファルージャの人々が毒性金属に汚染され、出生異常割合が驚異的に高まっていることを示した。障害児出生は今後も増える可能性があり広範囲な環境調査を急ぐべきだ」と述べた。 

米国防総省広報担当者は「ファルージャなどで米軍の武器に含まれる金属と障害児出生増加を関連付ける公式報告はない。我々は戦闘地域での人々の健康には常に最大の関心を持っている」と話している。 

【ことば】ファルージャ
 バグダッド西約50キロのイスラム教スンニ派の多い町。イラク戦争でフセイン政権が崩壊した034月直後から反米運動が起こり、043月には米国の民間軍事会社の武装社員4人が惨殺される事件が発生。米軍が4月に市内への入り口を封鎖して激しい軍事攻撃を行い、同年11月にもテロリスト掃討を名目にした攻撃で戦闘が激化した。詳しい犠牲者数は不明だが、計約3000人の住民が殺害されたとの情報がある。