2012年9月22日土曜日

「原発ゼロ」は早くも風前の灯に 対米従属と財界優先で +


 30年代の「原発ゼロ」を目指すことを掲げた「エネルギー・環境戦略」は、アメリカの反対意向の表明を受けて骨抜きにされましたが、財界が示した怒りにも委縮して、ついに閣議決定を見送り「参考文書」とすることで落ち着きました。
さらに枝野経産相は21日、計画段階の原発の建設についても「地域ごとに要望や事情が異なるので、丁寧に精査して結論を出さないといけない」と語り、新設にも含みを持たせる(日経新聞)など、後退は留まるところを知りません。 

電力各社もこの経緯を見て、「(原発ゼロの)政府の新戦略は、議論中と思っている」、「戦略を不断に見直すとしているので、準備を進めたい」、「申請中なので原子力規制委で早急に審査してもらいたい」などと、未着工の原発新設計画にも強気であることが分かりました。 

各地での公聴会や膨大なパブリックコメントで、国民の圧倒的多数が「原発ゼロ」を望んだことを受けてたてられた筈の戦略は、かくして「対米従属」と「財界優先」のもと、いまや風前の灯となりつつあります。 

 以下に東京新聞の記事を紹介し、併せて「原発ゼロ」の閣議決定を見送ったことに対する20日付の各紙社説の概要を紹介します。
この各紙社説の概要は、ブログ「かっちの言い分」(20日付)に掲載されたものを借用しました。なお「しんぶん赤旗」の主張は21日に掲載されたので、事務局で概要をまとめました。 http://31634308.at.webry.info/201209/article_20.html

「原発ゼロ 『変更余地残せ』 閣議決定回避を米が要求」(22日付東京新聞記事)を末尾に追加。
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政府及び腰で 電力各社 原発新増設に強気
東京新聞 2012921 

 全国で建設・計画中の12基の原発のうち、少なくとも4社の7基が、今後も計画推進の方針にあることが本紙の取材で分かった。原発ゼロを目指す新たなエネルギー戦略を打ち出しながら、閣議決定を見送るなど政府の及び腰が、電力各社の積極姿勢につながっている。 

 既に設置許可が出て建設が進んでいるのは中国電力島根3号機(島根県)、電源開発(電発)大間(青森県)、東京電力東通1号機(同)の三基。いずれも東日本大震災で工事は中断しているが、中国電と電発は建設を進める考え。
 東電は未着工の東通2号機を含め、未定としながらも「新戦略は閣議決定されず、議論中と思っている。今後の動向を注視したい」との回答だった。
 上関(かみのせき)1、2号機(山口県)=いずれも準備工事で中断中=を進める中国電は「政府はエネルギー戦略を不断に見直すとしており、現時点では断念できない。準備を進めたい」と推進の回答。川内(せんだい)3号機(鹿児島県)を計画する九州電力も推進するとの回答だった。

 敦賀3、4号機(福井県)を計画する日本原子力発電の担当者は「設置許可申請を出して安全審査中。原子力規制委員会で早急に審査してもらいたい」と期待を込めた。
 中部電力は浜岡6号機(静岡県)の計画を凍結しており、浪江小高(福島県)と東通2号機(青森県)を計画する東北電力は未定と答えた。

 電力各社が新増設に前向きになっているのは、政府の脱原発依存への姿勢があいまいで、原発の許認可権を持つ原子力規制委員会が、設置許可申請があれば安全審査をする方針を表明していることも影響している。
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「原発ゼロ戦略」 の閣議決定見送り についての各紙社説(概要) 

前述のとおり、以下ではブログ「かっちの言い分」(20日付)に掲載されたものを、そのまま借用しました。読売新聞を除く各紙が政府の姿勢を批判しています。 

東京新聞 ⇒ 閣議決定見送り 脱原発の後退許されぬ
 政府が「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を見送った。2030年代の原発稼働ゼロという目標すら後退しかねない。脱原発に本気で取り組む意気込みが野田佳彦首相にあるのか、疑わしい。
 首相に原発稼働ゼロを実現する強い決意があるのなら、こんな結末にはならなかったはずだ。
 きのう発足した原子力規制委員会の田中俊一委員長ら5人の委員人事でも首相は必要な国会での同意を得ず、規制委設置法の例外規定に基づいて任命した。
 「原子力ムラ出身者」の起用に民主党内でも反発が広がり、党の分裂回避を優先させたのだろう。
 あまりにも姑息(こそく)、党利優先で、国会軽視も甚だしい。こんな内閣には、もはや国民の生命と財産を守る役目を担う資格はない。  

毎日新聞 ⇒ 原発ゼロ政策 政権の覚悟がみえない
 これでは政策実現への決意が疑われる。 政府に対する拘束力が弱まり、脱原発は骨抜きになりかねない。野田内閣は、国民的議論を踏まえた決定の重みを認識し、脱原発への覚悟を示すべきだ。
 政策は閣議決定されることで、内閣の意思として確定し、その決定は変更されない限り、歴代内閣を拘束する。閣議決定をしないのでは、政策実現に責任を持つ意思を疑われても仕方ない。
 そもそも、新戦略づくりが大詰めを迎えた段階でも、内閣の腰は据わっていなかった。
 こうした腰砕けとも思える修正が続く一方で、原発依存の継続につながる動きが出ている。 

朝日新聞 ⇒ 脱原発政策 ― うやむやにするのか
 野田政権が、原発ゼロを目指す新しいエネルギー戦略の閣議決定を見送った。まことに情けない。
 新戦略は「原発ゼロ」を掲げながら核燃料サイクル事業を容認するなど、矛盾に満ちてはいたが、これでは肝心の脱原発までがうやむやになりかねない。
 閣議決定の見送りは、米国や経済界、立地自治体が原発ゼロに強く反対しているためだ。
 脱原発はきわめて大きな政策転換である。あつれきが生じないほうがおかしい。
 大事なのは、原発に依存しない社会に向けて、政治が原発維持派との折衝を含め、きちんと取り組んでいるか、私たち国民が監視していくことだ。
 たとえ規制委がお墨付きを与えたとしても、「絶対安全」は存在しない。原発のリスクがゼロにならない以上、再稼働は最小限に抑えるべきだ。
 ここで原発ゼロの目標を盛り込めないなら、民主党政権は国民から完全に見限られることを覚悟すべきだ。  

読売新聞 ⇒ 原発ゼロ方針 「戦略」の練り直しが不可欠だ
 こんな決着では、「原子力発電ゼロ」を見直すのか、それとも強行するのか、あいまいだ。
 政府は、日本経済や雇用に多大な打撃を与えかねない「原発ゼロ」を明確に撤回し、現実的なエネルギー戦略を練り直すべきである。
 今回のエネルギー戦略には、経済界や原発立地自治体が反発し、原子力協定を結んでいる米国も強い懸念を示している。
 閣議前日の18日には、経団連、日本商工会議所、経済同友会の財界トップ3人が共同で緊急記者会見を開き、「原発ゼロ」の撤回を政府に求めた。
 経済3団体の長がそろって政府に注文をつける異例の対応をとったのは、「原発ゼロ」では電気料金が2倍に跳ね上がり、産業空洞化や大量の雇用喪失が避けられないという危機感からだ。
 太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及をはじめ、原発の代替電源を確保するメドは立っておらず、電力の安定供給が揺らぐ恐れもある。
 こうした懸念に配慮し、政府がエネルギー戦略をそのまま閣議決定しなかったのは当然である。
 ただ、古川国家戦略相は記者会見で「戦略の決定内容を変えたものではない」と説明した。「原発ゼロ」の方針を堅持しているともとれる発言は問題だ。
 だが、「原発ゼロ」に伴う失業や貧困のリスクを理解し、苦難を受け入れる覚悟を固めている国民がどれほどいるだろうか。
 国策選択の責任を、国民の「覚悟」に丸投げするのは誤りだ。  

しんぶん赤旗 ⇒ 「原発ゼロ」決定せず やはり口先だけのことなのか
(※この分は事務局で要約)
 野田政権の「原発稼働ゼロ」は、目標の期限も行程も明示しない不確かなものだが、それでさえ財界は猛反発し、アメリカなどからも懸念が相次いでいた。閣議決定見送りは、野田政権に本気で「原発ゼロ」を実現する立場がなく、財界とアメリカの言いなりなことを浮き彫りにするものだ。
 「戦略」が、もともと停止中の原発再稼働を認めていることだけでも、「原発ゼロ」を真剣に追求する立場とは程遠いが、「戦略」をまとめた直後に、枝野経済産業相が建設中の電源開発大間原発などの建設継続を表明したのは、「原発ゼロ」が画に描いた餅だと認めたのも同然だ。
40年制限制の厳格な適用」というのもあやしく、既に40年を超えたものも3基ある。政府はこれらの廃炉の計画を具体的に示すべきだ。
 使用済みの核燃料を再処理する核燃料サイクルの計画を続けるとしているのも重大な矛盾、核燃料サイクルも直ちに中止すべきだ。

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(以下の記事を追加)
原発ゼロ 「変更余地残せ」 閣議決定回避 米が要求
東京新聞 2012922 

 野田内閣が「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」を目指す戦略の閣議決定の是非を判断する直前、米政府側が閣議決定を見送るよう要求していたことが二十一日、政府内部への取材で分かった。米高官は日本側による事前説明の場で「法律にしたり、閣議決定して政策をしばり、見直せなくなることを懸念する」と述べ、将来の内閣を含めて日本が原発稼働ゼロの戦略を変える余地を残すよう求めていた。 

 政府は「革新的エネルギー・環境(エネ環)戦略」の決定が大詰めを迎えた九月初め以降、在米日本大使館や、訪米した大串博志内閣府政務官、長島昭久首相補佐官らが戦略の内容説明を米側に繰り返した。
 十四日の会談で、米高官の国家安全保障会議(NSC)のフロマン補佐官はエネ環戦略を閣議決定することを「懸念する」と表明。この時点では、大串氏は「エネ戦略は閣議決定したい」と説明したという。

 さらに米側は「二〇三〇年代」という期限を設けた目標も問題視した。米民主党政権に強い影響力があるシンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のクローニン上級顧問は十三日、「具体的な行程もなく、目標時期を示す政策は危うい」と指摘した。これに対して、長島氏は「目標の時期なしで原発を再稼働した場合、国民は政府が原発推進に突き進むと受け止めてしまう」との趣旨で、ゼロ目標を入れた内閣の立場を伝えていた。また交渉で米側は、核技術の衰退による安全保障上の懸念なども表明したという。

 エネ環戦略は十四日に決めたが、野田内閣は米側の意向をくみ取り、「エネ環政策は、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という短い一文だけを閣議決定。「原発稼働ゼロ」を明記した戦略そのものの閣議決定は見送った。
 大串、長島両氏は帰国後、官邸で野田佳彦首相に訪米内容を報告している。
 政府関係者は「事前に米側に報告して『原発稼働ゼロ』決定への理解を求めようとしたが、米側は日本が原発や核燃サイクルから撤退し、安全保障上の協力関係が薄れることを恐れ、閣議決定の回避を要請したのではないか」と指摘している。 

◆「判断変えてない」大串政務官
 原発ゼロをめぐる米国との協議について、大串博志内閣府政務官は二十一日、本紙の取材に対し「個別のやりとりの内容は申し上げられないが、米側からはさまざまな論点、課題の指摘があった。米側からの指摘で日本政府が判断を変えたということはない」と話した。 

◆骨抜き背景に米圧力
<解説> 「原発ゼロ」を求める多数の国民の声を無視し、日本政府が米国側の「原発ゼロ政策の固定化につながる閣議決定は回避せよ」との要求を受け、結果的に圧力に屈していた実態が明らかになった。「原発ゼロ」を掲げた新戦略を事実上、骨抜きにした野田内閣の判断は、国民を巻き込んだこれまでの議論を踏みにじる行為で到底、許されるものではない。

 意見交換の中で米側は、日本の主権を尊重すると説明しながらも、米側の要求の根拠として「日本の核技術の衰退は、米国の原子力産業にも悪影響を与える」「再処理施設を稼働し続けたまま原発ゼロになるなら、プルトニウムが日本国内に蓄積され、軍事転用が可能な状況を生んでしまう」などと指摘。再三、米側の「国益」に反すると強調したという。 

 当初は、「原発稼働ゼロ」を求める国内世論を米側に説明していた野田内閣。しかし、米側は「政策をしばることなく、選挙で選ばれた人がいつでも政策を変えられる可能性を残すように」と揺さぶりを続けた。  
   放射能汚染の影響により現在でも十六万人の避難民が故郷に戻れず、風評被害は農業や漁業を衰退させた。多くの国民の切実な思いを置き去りに、閣議での決定という極めて重い判断を見送った理由について、政府は説明責任を果たす義務がある。        (望月衣塑子)