2018年2月23日金曜日

「安保法裁判」で明らかになったこと(田中淳哉弁護士)

 安全保障関連法に基づく防衛出動は憲法違反だとして、現職の陸上自衛官が国を相手取り、出動命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は1月31日、訴えを却下した1審・東京地裁判決を取り消し、審理を東京地裁に差し戻しました。

 この控訴審で、1審「原告の部隊に出動命令が出る具体的な可能性があるとは言えず、訴える利益がない」とした根拠は、被告となった国が、現時点で存立危機事態は発生しておらず、国際情勢に鑑みても、将来的に発生することを具体的に想定し得る状況にない」と主張したことを受けてのものと思われます。
 政府は、これまで盛んに北朝鮮の脅威を煽り、いまにも日本に向けてミサイルが飛んでくるかのように述べ、「国難」であるとまで口にしました。その一方で、裁判所に対しては「そのようなこと(存立危機事態の発生は具体的に想定できない」と真反対のことを述べているわけで、これほど国民を愚弄した話もありません。

「憲法カフェ@湯沢」でおなじみの田中淳哉弁護士が『上越よみうり』に連載中(隔週に1回)のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」に、「『安保法裁判」で明らかになったこと」を寄稿しました。

 田中氏は、この『矛盾』を絵に描いたような国の態度を
存立危機事態は、安保関連法の立法事実として主張されていたのであるから、それが現実に想定しうるものではないのであれば、安保関連法のうち少なくとも事態対処法の改正部分は不要ということになるので、速やかに同法を廃止すべきだし、仮に、現実に想定しうるのに、有利な判決を得るために虚偽の主張をしていたというのであれば、司法に対する冒涜であり、許されない」と、一刀両断にしています。存立危機事態が想定される」が「真」であっても「否」であっても、「非は政府にある」ことになり弁明のしようがありません。

 限られたスペースの中で、いつもながら簡潔に分かりやすく解説しておられます。 
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つれづれ語り(「安保法裁判」で明らかになったこと)
田中淳哉弁護士 2018年2月21日
『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

本日付朝刊に掲載された第29回目は、「安保法裁判」で明らかになったこと、です。
その時々で都合良く主張を使い分けていたのでは、「抑止力」も働きようがないと思います。

「安保法裁判」で明らかになったこと
存立危機事態の発生は想定できない?
現職の自衛官が、違憲の安保関連法に基づく防衛出動命令に従う義務はないことの確認を求めた裁判において、被告となった国が、存立危機事態の発生は具体的に想定できない(から訴えの利益はない)との主張を行っていたことが、わかった。
存立危機事態とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」をいう。政府は、この要件があることで、集団的自衛権の行使が限定されることを強調していた。

危機が迫っているのではなかったのか
政府は、「我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している」という抽象的なフレーズを繰り返して安保関連法の必要性を強調し、多くの国民の疑問・不安の声や、野党の反対を押し切って、強行採決により安保関連法を成立させた。
また、小野寺防衛大臣は、昨年夏、グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受ければ存立危機事態にあたりうると国会で答弁し、安倍総理は、北朝鮮問題を「国難」と強調して衆議院を解散した。
いずれも、裁判における国の上記主張とは、整合しない。

相矛盾する2つの主張が示すもの
存立危機事態は、安保関連法の必要性を基礎づける事実(立法事実)として主張されていたのであるから、それが現実に想定しうるものではないのであれば、安保関連法のうち少なくとも事態対処法の改正部分は不要ということになる。速やかに同法を廃止すべきだろう。
また仮に、現実に想定しうるのに、有利な判決を得るために虚偽の主張をしていたというのであれば、司法に対する冒涜であり、許されない。
いずれにしても、政府が相矛盾する2つの主張を場面ごとに都合良く使い分けていた事実が示すのは、存立危機事態にあたるかどうかは政府の意向次第でいかようにでも決められるということである。つまり、この要件は、政府の判断を縛る歯止めとしての機能を果たしうるものではないということだ。

大きく変わった自衛隊
自民党は、いま、自衛隊を憲法に明記すべく、党内で憲法改正原案の調整を進めている。その内容について、現状の自衛隊をそのまま書き込むだけで、任務や権限に変更を加えるものではないとの説明がなされることもある。
しかし、憲法に書き込もうとしている「現状の自衛隊」は、大規模災害で救助活動を行ったり、日本への武力攻撃に備えたりするだけの「従来の自衛隊」ではなく、集団的自衛権に基づき海外で武力を行使することも可能になった自衛隊であることを忘れてはならない。

憲法改正で問われること
存立危機事態の要件が歯止めとして機能しないもとで、政府の恣意的な判断によって集団的自衛権の行使に踏み込むことのないよう縛りをかけているのが憲法である。自衛隊が憲法上の存在となれば、この縛りは完全に解かれてしまうこととなる。
集団的自衛権を行使すれば交戦国となり、相手国は日本を適法に攻撃することも可能となる。日本がテロの標的となるリスクも飛躍的に高まるだろう。私たちの生活や生存にも大きな影響を及ぼす問題だ。憲法改正で問われるのは、この最後の縛りをなくしてよいかどうかということである。

「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」データを隠蔽

 事実とは異なる虚偽のデータを大宣伝する一方で都合の悪いデータは隠すという、政府の恥知らずなやり口が明らかにされました。

「なくなった」とされていた調査票が、厚労省本庁舎の地下倉庫から発見され19日にようやく提出された調査資料を長妻昭議員が精査したところ、明らかに異常な数値が新たに117件も見つかりました

 22日の衆院予算委で独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った調査結果は「裁量労働制のほうが実労働時間が長い」というもので、その調査は25年度下期労政審間に合うように」と厚労省が指示して行ったものであったことが明らかにされました。それが25年度以降の労政審以来ずっと日陰に置かれてきたのは、裁量労働制の推進に都合が悪いからに他なりません。
 都合がいいようにデータを捏造する一方で都合の悪いデータは隠すというのでは詐欺商法です。

 LITERAが、「厚労省が不都合なデータを隠蔽」した事実を指摘しました。
 それとは別に日刊ゲンダイは、ここまで政府のデタラメが暴露されても「働き方法案」を断念できないのは「3つの理由」からだとする記事を出しました
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捏造の次はデータ隠し! 厚労省が「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」という“不都合なデータ”を隠蔽
LITERA 2018年2月22日
 裁量労働制の拡大をめぐり、安倍首相が「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と自信満々に示したデータが捏造されたものだったという事実があきらかになって以降、次々にあり得ない問題が発覚している。

 まず、加藤勝信厚労相が「なくなった」と説明していたデータの基となった調査票が、厚労省本庁舎の地下倉庫から発見された。さらに、厚労省が19日にようやく出した調査資料を立憲民主党の長妻昭議員が精査したところ、たとえば1週間の残業が「25時間30分」なのに1カ月の残業が「10時間」となっているような異常な数値が、新たに117件も見つかった。

 問題となっている2013年度「労働時間等総合実態調査」は、裁量労働制で働く人には「1日の労働時間」を聞いていた一方、一般の労働者には「1カ月で“最長”の1日の残業時間」を聞き、そこに法定労働時間の8時間を足して算出。つまり、一般の労働者の労働時間が長く出るような質問をおこなっていた。どう見ても「恣意的な捏造」だ。

 その上、データの明白な誤りが発覚しているというのに、本日の衆院予算委員会で加藤厚労相は「結論をひっくり返す必要はない」と居直り。これに対し、立憲民主党の岡本章子議員が「根拠になっているデータ自体の信憑性が担保されないかぎり結論が正しいとは言い切れない」と追及すると、こんなことを言い出した。
「『結論を変えろ』と言うことは、(月60時間超の法定労働時間外労働の)中小企業の割増賃金率の猶予の廃止も、(時間外労働の)罰則付き上限規制も、それはすべきではないということになる」

 別の法案を人質にこれではまさに脅しそのものではないか。しかし、これこそが8本の法案を一括にした「働き方改革関連法案」の狙いだ。今回の法案には「同一労働同一賃金」などの労働界が求めてきた内容が盛り込まれているが、その一方で裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の導入などといった問題法案もひとまとめにされてしまっている。「これをイヤだと言うなら、あっちもやめるぞ」と言うために、こうやって法案を一括にしているのである。

厚労省が「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」という “不都合なデータ”を隠蔽
 まったくやり方が汚すぎるが、このように安倍首相と加藤厚労相は、捏造された比較データが「労働政策審議会に示したわけではない」ことを理由に、裁量労働制の拡大を含めた法案の提出を進めていく姿勢を一向に崩していないのだ。
 だが、比較データが労政審に示されなかったからといって、何の問題もないとするのはおかしい。実際、今回のデータ捏造問題をいち早く指摘してきた上西充子・法政大学教授は、昨日21日の中央公聴会における意見陳述のなかで、こう言及した。
「一般労働者の『平均的な者(しゃ)』の1週の法定時間外労働のデータが、『最長』の週のデータであることの説明がないまま、普通の週のデータであると受け取られる形で第104回の労政審労働条件分科会(2013年10月30日)に紹介されています。それはつまり、実際には過大な数値であったものが、通常の数値であるかのように紹介されたということです」

 しかも、本日の衆院予算委員会では、データ捏造の核心に迫る新たな疑惑が浮上したのだ。
 厚労省が認めているように、「裁量労働制は一般労働者より労働時間は短い」ことを示すデータはないが、逆に裁量労働制のほうが実労働時間が長くなることを示すデータは存在している。厚労省が要請しておこなわれた、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果がそれだ。
 このJILPTの調査結果は、労政審で裁量労働の満足度などの「都合のいい」結果は示されていたが、肝心の実労働時間についての結果だけが報告されていない。一方、問題となっている2013年度「労働時間等総合実態調査」は、前述の上西教授が中央公聴会で指摘したように、「2013年9月27日の第103回労政審労働条件分科会で、裁量労働制の見直しのための実態把握をおこなうものとして分科会委員に示されており、今後の労働時間法制の検討の際に必要となる実態把握をおこなったものと位置づけられて」いた。

施行延期はごまかし!「働き方改革関連法案」は廃案にしないと取り返しのつかないことに
 だがじつは、このJILPTの調査こそ、労政審では法改正のための実態把握調査として位置づけられていたのではないか、というのだ。
 というのも、岡本議員が入手したという厚労省がJILPTに調査研究を要請した際の文書には、「25年度下期に労政審で議論を開始する予定であり、それに間に合うように調査研究の成果をまとめていただきたい」「労働時間法制の企画立案の基礎資料にする」と書かれている、というのである。

 JILPTの調査こそが法改正のための実態調査だったのに、一体なぜ、いつのまに、その位置づけが2013年度「労働時間等総合実態調査」に置き換えられてしまったのか。──JILPTの調査は「裁量労働制のほうが一般労働者よりも実労働時間が長くなる」という都合の悪い結果だったために、2013年度「労働時間等総合実態調査」を実態把握調査という位置づけに置き換え、JILPTの結果は労政審に出さなかったのではないか。そう疑うのが自然だ。

 このように、掘れば掘るほど、恐ろしいデータ捏造やデータ隠しなど恣意的な動きの実態があきらかになっていく裁量労働制の問題。安倍政権は批判を緩和するために施行を1年遅らせる方針を打ち出したが、施行を延期したところで法案が成立してしまっては取り返しがつかなくなる。このまま「働き方改革関連法案」が可決・成立するようなことがあれば、裁量労働制の拡大とともに長時間労働、過労死を助長すると問題視されている高度プロフェッショナル制度なども導入されてしまうからだ。

 安倍首相は過労自殺した電通の高橋まつりさんの事件について、「2度と悲劇を繰り返さない」「長時間労働の是正に取り組む」と述べてきた。だが、実際は長時間労働を是正するどころか、こうやってデータを捏造し長時間労働にならないかのように嘘を振りまいてまで、長時間働かせ放題の法案を通そうときたのだ。その責任を問うことはもちろん、徹底的にデータ捏造の真相究明がおこなわれなくてはならない。(編集部)


安倍首相が窮地も…「働き方法案」断念できない3つの理由
日刊ゲンダイ 2018年2月22日
 裁量労働制の拡大を含む「働き方改革」関連法案をめぐって、安倍政権が窮地に陥っている。20日の衆院予算委集中審議でも厚労省の“捏造”データについて野党から徹底攻撃され、安倍首相は言い訳と防戦一方。政府は、今月下旬か、ずれ込んでも3月上旬、という関連法案の国会提出姿勢を崩していないが、与党内からは「これはまずいんじゃないか」と先行きを不安視する声も出てきた。

「捏造」データは、一般労働者の「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」と裁量労働者の「1日の労働時間」を同列で扱い、裁量の方が労働時間が短いという結論を導き出したヒドいものだ。野党6党は法案提出の断念を求めることで一致。8本の関連法案から裁量労働制拡大の部分を外すことやデータの再調査などを提案している。これに政権は平謝り。だが、安倍には法案断念に絶対応じたくない理由が3つある。

①アベノミクスの代替
「日銀頼みの金融緩和政策も限界。それに取って代わる成長戦略が働き方改革です。法案が出せなければ成長戦略のシナリオが狂ってしまう」(官邸関係者)
 少子高齢化を「国難」とする安倍政権の懸念は労働力不足で国力が落ちること。「生産性革命」のために老若男女問わずモーレツに働いてもらわなければならず、そのための法案なのである。

②財界・連合とのバーター
 法案は厚労省の諮問機関である労働政策審議会(労政審)の議論を経て決定されたものだが、その労政審の上に置かれたのが「働き方改革実現会議」だ。経団連の榊原会長と連合の神津会長はメンバーだった。
 財界にとって残業代を減らせる裁量労働制の拡大は悲願。人件費抑制につながる働き方改革実現のため自民党への献金額を増やし、賃上げの官製春闘にも応じてきた。一方、連合も「長時間労働是正」とセット扱いにされ、法案作成で官邸と握ってきたのが実態だ。
「だからなのでしょう。今回の不適切なデータについて、連合はもっと批判していいのに反応が鈍い」(野党関係者)
 連合を黙らせるためには8本セットで法案提出が絶対というわけだ。

③安倍首相のメンツ
 実はこれが一番大きいかもしれない。今国会を「働き方改革国会」と命名したのは安倍首相本人である。
「安倍さんが自らクビを絞めてしまった。働き方法案は今国会の目玉ですから、予定通り出さなければ政権は持ちません」(自民党関係者)
 とはいえ、自民党内からは、「データを再調査してスッキリさせた後の方がいいのは事実」「生煮えのまま出したら、国会審議が持たない」「森友問題より世論の批判は激しくなるんじゃないか」などという見方も出てきている。安倍首相は、このまま押し切れると思っていたら甘い。

23- 理論的根拠を失っているアベノミクスをさらに進めようと

 2008年にノーベル経済学賞を授与されたポール・クルーグマン氏は、1998年に『流動性の罠』と題した論文を発表し、日本に対してリフレ策を勧めました。
 その理論を紹介し、安倍首相に金融の異次元緩和を決断させ、いわゆる「アベノミクス」に走らせたのが浜田宏一・東大名誉教授でした。「日銀が国債を大量に買ってマネーを増発すれば、それが需要の増加を生んで、デフレからは脱却でき、経済は成長に向かう」というものでした。

 しかしご存じの通りアベノミクスが何の効果も上げなかった中で、クルーグマンは2015年10月に日本再考Rethinking Japan)』をニューヨークタイムズ紙に発表し、『流動性の罠』発表後17年が経過する中で、経済の状況が変わり不適なところも出てきたとし、「日本の潜在成長力が高まらないのは人口減少が原因であり、急激な財政拡張策は日本の政策にはなり得ない」ことを明らかにしました。
 浜田氏もその後 日経新聞インタビュー記事で「私がかつて『デフレはマネタリーな現象だ』と主張していたのは事実」だとして、デフレ脱却には金融政策だけでは不十分だったことを認めました。

 要するにアベノミクスの理論的支柱であった人物が、2年半も前に誤っていることを認めているのに、安倍政権はそれを受け入るどころか逆に加速してきたわけです。そして黒田日銀総裁の続投を決めてさらに推し進めようとしています。
 政策が失敗であったのならそれを認めて修正するというのが当たり前の政治家ですが、潔さとは無縁の政権は、事態を更に深刻化させる方向に進もうとしています。

 高野孟氏の永田町の裏を読む:「アベノミクスの後始末押しつける 黒田再任の日銀総裁人事」を紹介します。
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 永田町の裏を読む
アベノミクスの後始末押しつける 黒田再任の日銀総裁人事
高野孟 日刊ゲンダイ 2018年2月22日
 黒田東彦日銀総裁の再任が決まったことについて、マスコミが「実績を高く評価」(時事)、「経済の安定重視」(読売)、「市場に安心感」(朝日)などと歓迎の意を示しているのは異様な光景である。アベノミクスの大黒柱とされた「異次元金融緩和」は、すでに理論的にも政策的にも金融論としても、とんでもない大間違いだったことがはっきりしてしまったので、本当ならば黒田のクビを叩き切って国民におわびし、遅まきながらも政策転換を決行しなければならないが、それだと黒田だけでは済まず、安倍晋三首相もクビを差し出さなければならないから、とてもできない。

 そこで、異次元緩和を続けていくようなフリをしながら微修正を重ねて何とか出口を探し出していくという面倒な仕事を誰かに押しつけなければならないが、こんな5年がかりの大間違いの後始末を引き受けてくれる奇特な人などいるわけがなく、どうにもならなくて、「もうイヤだ。辞めさせてくれ」と哀願している黒田に押しつけたのである。

 アベノミクスの理論的基礎を提供したのは、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンで、その輸入代理業者である浜田宏一が、この「お札をドンドン刷れば人々は勘違いしてお金を使うから景気がよくなる」という珍理論を安倍に吹き込んだのが事の始まりであることは知られている。しかし、そのクルーグマンは1年半も前の2015年10月20日付のニューヨーク・タイムズ電子版で「日本再考」と題して「私の理論は日本では通用しなかった。その最大の理由は、日本の人口減少という構造要因による需要減を計算に入れていなかったことだ」という趣旨の告白をしたというのに、少なくとも日本の大マスコミでこれを、アベノミクスの大前提が崩壊した重大事件として報道したところは絶無だった。

 安倍も黒田も、その時にすべてをクルーグマンのせいにして「ごめん、間違えた」と言ってしまえばよかったのに、その勇気がなかった。そこで失敗を糊塗するために、為替市場だけでなく債券市場も株式市場も事実上、官邸が管制塔となって日銀を手先に使って統制・管理するという、中国でもやっていない、やっているとすれば北朝鮮くらいかという市場機能停止の暴挙へと突き進んできた。

 その後始末に黒田は次の5年間、苦しんだ揚げ句に失敗し、史上最低の総裁という烙印を得るだろう。が、安倍は5年後は総理総裁ではないから「俺の知ったことではない」というのがこの人事である。

高野孟   ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。

2018年2月22日木曜日

安倍9条改憲は日本に何をもたらすか

 しんぶん赤旗の「安倍9条改憲 日本に何をもたらすか」を紹介します。
 憲法自衛隊明記することで9条2項空文化されると、これまで「専守防衛」の制約から持てないとされてきたあらゆる「攻撃的兵器」の保有が可能になります。
 また集団的自衛権の行使にも制約がなくなるので、無制限の海外での武力行使へと道を開くことになります。
(このシリーズでは、安倍9条改憲が狙っている物に関する記事が、随時掲載されます)
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シリーズ 安倍9条改憲 日本に何をもたらすか
「攻撃的」兵器の「制約」 自衛隊明記で“突破”
しんぶん赤旗 2018年2月21日
 憲法への自衛隊明記で9条2項は空文化し、無制限の海外での武力行使へと道を開きます。それにより「攻撃的兵器は持てない」とされた装備面での従来の制約も突破され、自衛隊は攻撃的に増強されます。その重大な危険を考えます。(中祖寅一・日隈広志)

緊張激化の悪循環に
 歴代自民党政府は、自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」であり9条2項の「戦力」に該当しないといいつくろうために、海外での武力行使はできないとしてきました。その装備面への反映として、「他国の領域に対して直接脅威を与えるようなものは禁止されている」(中曽根康弘防衛庁長官、1970年3月30日、衆院予算委)といわざるを得ませんでした。ICBM(大陸間弾道弾)やB52のような戦略爆撃機、空母などは持てないとしたのです。
 敵基地攻撃能力についても議論され、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の(他国領域の)基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ(る)」(1956年2月29日、衆院内閣委)として、法理上の可能性にとどまり、「他に手段がない」という限定を付してきました。加えて巡航ミサイルを実際に持つことが「他国への侵略的脅威」とならないかの検討も必要としました。「防御」を理由にしたとしても、他国への重大な脅威となるからです。

 これらの制限が、自衛隊の憲法明記で一気に突破されていく危険があります。アジア諸国との軍事的緊張激化という悪循環を加速させます。
 また、安保法制=戦争法で集団的自衛権の行使が「限定的」に解禁され、米軍防護のための武器使用も認められましたが、自衛隊明記で武力行使が無制限になれば、そのための装備も強化、拡大されていく危険があります。

巡航ミサイル・空母も
 安倍政権は、18年度予算案で、現行の政府解釈から見ても憲法9条違反となる「敵基地攻撃兵器」の保有や全面的な集団的自衛権の行使につながる兵器の導入経費を盛り込んでいます。自衛隊の憲法明記で従来の制約を取り払えば、こうした兵器が名実ともに「合憲」となり、何の制約もなく、「戦争する国」に突き進むことになります。

「敵基地攻撃」否定はできず
 18年度予算案に取得費を盛り込まれた長距離巡航ミサイル「JSM」は、航空自衛隊が配備を進める最新鋭ステルス戦闘機F35Aから発射し、射程は約500キロ。日本海上空から北朝鮮内陸部への攻撃も可能です。
 「JSM」などとともに導入が検討されている射程900キロの「LRASM」や「JASSM―ER」を配備すれば、日本の領域から北朝鮮全域やロシア東部の軍事拠点が射程圏内になります。日本共産党の宮本徹議員は7日の衆院予算委員会で「他国に脅威となる兵器になるのは明白だ」と批判しました。
 これに対して小野寺五典防衛相は「敵基地攻撃能力を目的とするものではない」としたものの、「私の責任で言える立場は政府の現在の考え方だ」と答弁し、将来の可能性を否定しませんでした。

 そもそも小野寺氏は防衛相就任前の昨年3月、「敵基地反撃能力」の保有の検討を求めた自民党政務調査会の提言をまとめた張本人です。この提言を政府に提出し、自らが防衛相になるやいなや、実行に踏み切っているのが実態です。
 重大なのは安倍首相が14日の衆院予算委員会で、「ひとたび攻撃を受ければ回避することは難しく、先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実だ」と述べたことです。事実上、先制攻撃の可能性に踏み込み、「専守防衛」逸脱どころか先制攻撃容認のきわめて危険な議論です。
 敵基地攻撃能力ではこれに加えてヘリ空母「いずも」を短距離離陸・垂直着陸できるF35Bステルス戦闘機の運用を可能にするための改修を構想しているとの報道がなされています。「攻撃型空母」の保有は憲法上、できないというのが現行の政府解釈です。

集団的自衛権無制限行使も
 「ミサイル防衛」網の一環として導入が狙われている陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」は、技術的可能性に根本的な疑問があるものの、日米が共同開発している新たな迎撃ミサイル(SM3ブロックIIA)が搭載されれば、米領グアムに向かう弾道ミサイルの迎撃が可能になります。トランプ大統領が「日本が防衛装備を米国から購入すれば、日本上空で(北朝鮮の)ミサイルを撃ち落とすことができる」(17年11月6日、日米首脳会談後の共同記者会見)と安倍首相に導入を迫っていました。
 14日の衆院予算委員会で、小野寺氏は、安保法制=戦争法の「新3要件」が満たされれば、米領グアムへ向かう弾道ミサイルを日本が迎撃可能だと述べました。しかし、米領へ向かうミサイルによってなぜ日本の国民生活が危機に陥るのか説明はありません。安保法制でも行使できない無制限の集団的自衛権につながります

働き方改革関連法案は 経営・財界の利益のため

 働き方改革関連法案は、22日午後安倍首相も出席して集中審議を行うことで与野党が正式に合意しました
 その一方で、同法案を「今国会で成立させる」方針を自公が確認したということです(NHK)。

 安倍政権はこれまで、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を含む安保法制、戦前の治安維持法に匹敵する共謀罪法と、いずれも人権を著しく抑圧する悪法を成立させてきました。
 そして今度は、戦後営々と築いてきた労基法と労働規制法による労働環境を一挙に破壊して戦前に回帰させる「働き方改革関連法案」を、強引に成立させようとしています。
 政府が、経営・財界が儲けを更に拡大するためには、労働者の生活が破壊されてもいい、彼らの生活が一生向上しなくてもいいと考えているわけです。

 働き方改革関連法案・・・特に裁量労働制の拡大を痛烈に批判する3つのブログを紹介します。
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捏造データに官邸は関与していないというのなら、
安倍氏には誰が指示したのか明らかにする責任がある。
日々雑感 2018年2月21日
 安倍晋三首相は20日午前、衆院予算委員会の集中審議で、裁量労働制の労働者と一般労働者の労働時間に関するデータ比較が不適切だった問題について「私や私のスタッフから指示をしたことはない」と述べ、データ作成への首相官邸の関与を否定した
(以上「毎日新聞」より引用)

 総量労働制の捏造労働時間データに官邸は関わっていない、と安倍氏は釈明したという。それなら捏造データに基づいて三年も審議会を重ねた責任者を処分すべきが筋ではないか。
 それとも官邸の意向を「忖度」してデータを捏造した官僚は「愛い奴ウイヤツ」だからドコゾの長官に栄転させなければならないと、厚労省の人事表を取り寄せて検討しているのか。なぜお粗末な捏造データに基づく法案を恥じて、政府は撤回を明言しないのだろうか。

 しかも問題なのは一括審議としてパートやバイトなどの関係法案までまとめて審議していることだ。これほど悪辣な政権がかつてあっただろうか
 戦後営々として築き上げてきた労働規制法を小泉政権以降、自公政権は破壊し続けてきた。そしてついに残業時間も含めて労働時間に関する基本的な規制までも「総量労働制」という名の下に撤廃しようとしている。国会議員はもとより、なぜ労働界はゼネストまでも含めた抗議活動を展開しないのだろうか

 エグゼクティブの限定法だからと残業無料法を放置したが、年収制限などアッという間に引き下げられて一般労働者にまで拡大されるのは消費税を見れば明らかだろう。労働組合幹部からなる連合はそうした学習効果すらない、愚かな連中の集まりだろうか。

 そしてマスメディアは官邸が関与していないというのなら、捏造データを持ち出した「犯人」は誰なのか追及すべきだ。第三の権力たる報道の自由を発揮すべき場面はまさしくここではないだろうか。腐り切った言論界も人材を総入れ替えしなければならないだろう。


裁量労働制のデータ〝ねつ造〟~ 立法化の裏に「財界のリクエスト」
    東海林  レイバーネット 2018年2月21日
(労働ジャーナリスト)     
 法大の上西教授が完膚無きまであばき、政府・厚労省もデータを撤回したけど、政府は「ごめん」で済まそうとしている(事実、官房長官菅は、『法案提出、成立の方針にまったく変わりはない』といつのものごとくだ)から、言っとく。
 「(数字のねつ造は)意図的ではない」と厚労キャリアは言っているけど、意図的であろうが(や、もちろん意図的であったら大問題だけどさ)なかろうが、政府・与党が主張してきた〝立法事実〟が、虚飾であり存在しなくなったのは動かない事実。立法事実がなくなった法律を国会に提出するなら、不誠実どころの話しではなく、政府の政策の正当性が厳しく問われる。ここで突っぱねて出し続けるのなら、この改正の立法事実は〝残業代払わないで長時間労働を可能にする制度を作れ〟という財界のリクエストだということだ

 思い返しても、首相・安倍は働き方改革を決して「労働者の健康維持、福祉の向上のため」とは言わない。彼は一貫して「最大の成長戦略」と言い放ってきた。労働者の命を縮める制度を、そうでないと言いくるめるために、これらのデータを使ってきた。安倍・政府は、今回の問題は「厚労省のミス」と開きなおっているが、1月29日の予算委で首相・安倍は、聞かれてもいないのにこのデータを示し、裁量労働制の方が労働時間が短いとアピールしたのだ。まさに、政府がこの法改正の立法事実をここに求めていたことは明らかだ。
 繰り返して言うが、立法事実のなくなった改正案は害悪でしかないのだから、早いところ撤回すべきだ。もちろん、裁量制と同等、それ以上にタチの悪い高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度・過労死促進制度)の撤回も忘れるな。(2/20 同氏のFBから)


裁量労働制データ捏造  厚労省当局者「官邸に忖度した」
田中龍作ジャーナル 2018年2月20日
 「裁量労働制で働く方の労働時間は、一般労働者よりも短いというデータもある」と安倍首相が答弁し、後に撤回した問題
 調査票の回収に携わった経験のある厚労省当局者が、田中龍作ジャーナルの取材に「(データは厚労省が官邸の意向を)忖度したのだろう」と明らかにした

 問題のデータは、2013年に厚労省が実施した「労働時間総合実態調査」。一般の労働者には「残業時間が最も長かった日」を、裁量制労働者には「通常の勤務時間」を聞いた。
 裁量労働制の方が、残業時間が短くなるように仕組まれた調査だったのである。
 調査があったのは2013年4月。同年6月に政府は裁量労働制の拡大に向けての戦略を閣議決定した。厚労省は政府の方針に沿った調査結果を出すように暗に求められていたのである。
 厚労省の職員は若い頃、研修で地方の労基署で1~2年勤務する。財務官僚が税務署に赴任するのと同じだ。
 趣旨の違う2つの質問だったのに、回答をわざわざ1つのデータにした・・・前出の厚労省当局者は「(役人が)こんな初歩的なミスをするはずがない」と苦笑する。
 厚労省は6野党合同ヒアリングに対して「裁量労働の方が残業時間が短い」とする姿勢は崩していない。
 厚労行政に詳しいある野党議員は「本当のデータを出せばクビになるから、ウソを出すしかないんですよ」と喝破した。
〜終わり~


働き方改革関連法案 今国会で成立目指す方針 自公が確認
NHK NEWS WEB 2018年2月21日
自民・公明両党の幹事長らが会談し、安倍総理大臣が裁量労働制で働く人の労働時間に関連した国会答弁を撤回したことも踏まえ、働き方改革の関連法案の内容が適正かどうか厳正に与党内で審査したうえで、今の国会で成立を目指す方針を確認しました。

この中で、働き方改革の関連法案について安倍総理大臣が裁量労働制で働く人の労働時間に関連した国会答弁を撤回したことも踏まえ、国会への提出前に与党内で法案の内容が適正かどうか厳正に審査することで一致しました。そのうえで「国民の生活と極めて関係の深い重要法案だ」として今の国会で成立を目指す方針を改めて確認しました。
また、衆議院予算委員会で審議している新年度・平成30年度予算案について、来週27日の衆議院通過を目指すことで一致しました。
(後 略)

22- 北朝鮮との戦争は海自の臨検から始まる(世に倦む日々)

 北朝鮮の核・ミサイル問題について、日本では、米高官の「決断のときは近づいている」などの発言を根拠に、平昌五輪が終われば「待ったなし」になるかのようにメディアは報じています。しかし識者たちは、「北朝鮮問題」は米国が日・韓に高額な武器を売り込む格好の口実になっているので、米国がその旨みを解消する筈はないと、冷静に見ています。
 いずれにしても、米国は目下エルサレム・イラク・シリアなど中東問題で手一杯なので、北朝鮮問題で動き出す余裕などはないというのが専門家の見方です。
 いきおい米朝間の対話ムードが醸成される方向ですが、それでは完全に孤立してしまうと焦っているのが安倍首相です。

 20日、政府は今月16日に、中国の上海の東およそ250キロ沖合の東シナ海の公海上で、北朝鮮船籍のタンカーが船籍不明の小型の船に横付けしている様子を、海上自衛隊のP3C哨戒機が撮影した画像を公表しました。国連安保理決議で禁止した洋上での物資の積み替え(=瀬取りを行っていた疑いが強い安保理にアピールするためです。

 政府は14日にも13に同じ東シナ海の公海上でP3Cが撮影した同様の写真を公開し、国連安保理に通報しています
 
 元外交官の天木直人氏は、「瀬取り」を取り締まることは「臨検」(=戦闘行為)と紙一重のことでなので、それは日・朝間の戦闘行為につながると警告しています。
 そして日本の国防とは何の関係もない遠くの海上を、わざわざ自衛隊機に「哨戒」させているのは安倍首相の意向によるものだとしています。

「世に倦む日々」氏は、
米国にとっては、南北融和も米朝対話も悪くない政治の転がり方なのだ。それが都合が悪い国が一国だけあり」それは極右の安倍政権に牛耳られている日本であるとし
今、安倍晋三は焦っていて、 、昨年までにトランプと一緒に構築した北朝鮮制裁の国連スキームを使って、何とか有事発生のフェーズ=様相に持ち込もうと思惑している。具体的に何かというと、北朝鮮の 瀬取り船舶” の臨検だ」と述べています。

 そしてもしも臨検が可能になる取り決めが出来れば、米国はそれを日本にやらせる筈だとしています。そうなれば直ちに「日・朝間の戦争状態」が生まれることになり、安倍首相はそれを狙っているというわけです。

 以下に「北朝鮮との戦争は海自の臨検から始まる - 米朝戦争ではなく日朝戦争」(世に倦む日々)を紹介します。

 注) 文中に登場する古川勝久氏は国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会の前・専門家パネル委員で、「北朝鮮制裁法」の制定を提唱しています。
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北朝鮮との戦争は海自の臨検から始まる
- 米朝戦争ではなく日朝戦争
世に倦む日々 2018年2月20日
準備されている戦争は、米朝戦争ではなく日朝戦争なのではないか。ここ数日、急にそのように悲観するようになった。年明け以降、私は北朝鮮情勢については楽観的な見方が強くなり、米朝の軍事衝突は起こらないという判断に傾いていた。それには根拠がある。まず、東アジア・太平洋担当の国務次官補代行のスーザン・ソーントンが、15日の議会公聴会で「『鼻血作戦』は存在しない」と明言している。危機を煽る一方の日本のマスコミは報道しないけれど、このDCの事実は大きい。ソーントンは中国との協調重視の立場をとるハト派の外交官で、ティラーソンがずっと後押ししてきた人物だ。日本国内では、情報長官のコーツが13日に議会で証言した「決断の時は近づいている」という物騒な表現に注目が集まり、米国による先制攻撃が必至であるような報道で埋め尽くされているが、米国の動きは決して主戦論一色で染まっているわけではない。むしろ、対話に向けて北朝鮮に探りを入れている政府高官の発言が相次いでいる点に気づく。12日にはペンスが韓国からの帰路の機中で「北朝鮮が望むのならば、我々は対話する」と述べ、発言はニュースとして広く伝わった。18日にはティラーソンが「北朝鮮が対話の用意ができたと言うのを待っている」と発言している。

これらはどういう意味だろうか。普通に考えれば解釈は簡単で、北朝鮮が「米国と対話する用意がある」と言えばいいというメッセージだ。核・ミサイルを示威して脅す挑発外交をやめ、対話路線に転換する意思を明示せよという要求だ。そういうシグナルを明確に発信すれば、こちらも形を作って応じてやると呼びかけている。つまり、言葉どおり北朝鮮の対話外交を待っているという意味だ。現在、南北対話の方は順調に進んでいて、平昌五輪後にIOC会長のバッハが平壌を訪問することが決まっている。北朝鮮側はおそらく、金与正の指揮で五輪後に本格的な南北融和のプログラムを繰り出すはずで、少女時代のソヒョンらK-POPの歌手を平壌に招いてコンサートを開くとか、韓流作品の映画祭を開催するとか、文化交流事業の計画を打ち出してくるだろう。五輪閉会式から4日後の3月1日には、三・一独立運動を記念する三一節(サミルチョル)がある。今年は99周年で、来年は100周年の民族のメモリアル・イヤーだ。たとえば、私が北朝鮮指導部の政策参謀なら、来年の三一節に金正恩がソウルを訪問し、南北合同の政府主催記念式典を挙行するという大胆な戦略を発表する。それを金与正から動画か会見で公表させる。このサプライズには韓国国民も度肝を抜かれるだろうし、世界があっと驚くだろう。

このように南北友好の環境が醸成される中で、北朝鮮側が米朝対話に応じる外交カードを切ってきたら、ホワイトハウスの保守派も簡単に突っぱねるわけにはいかないし、文在寅政権の協調路線をバックアップする方針に転じ、軍事圧力と経済制裁を強化してきた従来の政策を修正せざるを得なくなるだろう。北が米朝対話に応じると表明する場面が出現することは、トランプ政権にとっては実は画期的な成功を意味する。自らの剛腕で中国と国連を引っ張った、対北朝鮮外交の勝利を喧伝できる成果の実現に他ならない。それは、11月の中間選挙のキャンペーンで自画自賛できる材料を得ることを意味する。米国にとっては、南北融和も米朝対話も悪くない政治の転がり方なのだ。それが都合が悪い国が一国だけあり、極右政権がハンドルする日本である。今、安倍晋三は焦っていて、焦りつつ、昨年までにトランプと一緒に構築した北朝鮮制裁の国連スキームを使って、何とか有事発生のフェーズに持ち込もうと思惑している。具体的に何かというと、北朝鮮の「瀬取り」船舶の臨検だ。16日の産経新聞の「主張」に詳しく説明されていて、まるで大本営たる安倍官邸の今後の北朝鮮戦略を予告するような記事だ。瀬取りは安保理制裁決議が禁止する密輸行為だから容認できないと言い、しかし、北朝鮮から出航して他国の港に寄港せず海上で積み荷を積んでいる船舶は現行の決議では拿捕できないのだと言っている。

そのため、新たな追加の制裁決議を通すか、日米の独自制裁で臨検と拿捕をやろうよと言っていて、それをするには国内法制の整備が必要だとある。まさしく、古川勝久の「北朝鮮制裁法」の構想と符合するではないか。そういうことだったのだ。すべての情報が繋がって一つの絵が描かれる。「北朝鮮制裁法」は、抽象的な戦争法案ではなくて、具体的な標的と日程が決まった直近の戦争法制で、すぐに北朝鮮のタンカーを臨検・拿捕する準備ができているのだ。国会を通した法律で合法化するだけなのだ。先週、東シナ海でベリーズ船籍のタンカーから北朝鮮のタンカーに「瀬取り」が行われている写真が公開され、NHKを始めとする全局のニュースで大きく報じられた。撮影したのは海自のP3Cである。偶然なのか、なぜかこのP3Cの偵察活動が17日のTBS報道特集で紹介されていて、奇妙な一致に胸騒ぎを覚えさせられる。臨検の任務を担当するのは海自の特別警備隊(SBU)で、米海軍のSEALsをモデルとして創設された特殊部隊だ。不審船の武装解除と無力化を主任務とする。江田島に配備されているこの特殊部隊(SBU)が臨検に出動する。公海上の臨検は海自、領海内の臨検は海保が分担となっている。もし、海自SBUが実際に北朝鮮船舶を相手に動けば、初めての任務発動になり、他国船舶への軍事力の行使になる。どういう法的正当化(事態定義)を図るか不明だが、隊の作戦準備は確実に進んでいる。

北朝鮮の「瀬取り」船舶への臨検を、どうやら米国は日本の自衛隊にやらせる魂胆だ。われわれの通念では、北朝鮮との戦争は、米国が最初に一撃を入れ、巡航ミサイルと無人機と戦略爆撃機を使い、空から北朝鮮の地上を派手に攻撃するところから始まると考えられていた。「鼻血作戦」の開始と進行であり、(1)レーダー通信網を潰し、(2)軍事境界線に張りついた長距離砲と多連装ロケット砲を殲滅し、(3)核開発施設を破壊するものと想定されていた。だが、何とも予想外なことに、戦争は北朝鮮から遠く離れた海から始まり、しかも最初の攻撃を担うのは自衛隊らしいのだ。臨検と拿捕を受けた北朝鮮は、当然、この行為を自衛隊(日本軍)による侵略戦争の先制攻撃と断定、非難し、主権を守る自衛戦争の突入を布告、朝鮮人民軍による日本への反撃と報復を宣言するだろう。そこから先はどうなるか分からないが、古川勝久の「北朝鮮制裁法」の有事フェーズの国内措置が次々と起動し、あの三浦瑠麗の不気味な妄言が、単なるお笑い番組のネタではなく、安倍晋三が周到に仕込んだ戦時環境作りの一環であった真実が判明する恐怖の展開になるかもしれない。北朝鮮には基本的に海軍の部隊がない。海上で自衛隊と戦闘する能力がなく、シーレーンを防衛する戦力がない。したがって、人民軍による反撃と言ってもできることは自ずと限られてしまい、使える軍事力はミサイル(BC弾頭含む)と特殊部隊だけという前提になる。

胸騒ぎがしたもう一つの理由は、偶然かもしれないけれど、街の書店の店頭で、池上彰の『知らないではすまされない自衛隊の本当の実力』という新刊が発売されているのを見たことがある。海自のP3CやSBUのことが書かれていた。本の内容は、昨年8月にフジテレビで放送した番組を文字印刷しただけの粗雑なものだが、奥付に2月15日発行とあり、何やら急いで出版した事情と背景を窺わせる。不吉な思いで帰宅すると、TBSの報道特集でP3Cの搭乗員の訓練の様子が流されていた。まさか、近々プライムニュースに古川勝久が出演して、「北朝鮮制裁法」と船舶臨検の話をするのではあるまいか。あるいは、NHKのNW9かテレ朝の報ステの小特集で、呉の特別警備隊(SBU)が特集され、不審船を急襲して制圧する訓練の模様が放映されるなどということがあるのではないだろうか。いずれにせよ、外務省はP3Cが撮影した「瀬取り」の証拠写真を国連の北朝鮮制裁委員会専門家パネルに送っていて、「瀬取り」船舶の臨検を認める追加制裁決議を迫る動きに出ている。南北融和が着々と進展して効果を上げている中、安倍晋三は焦って急いでおり、平和へと向かっている半島情勢を覆して有事を到来させる狙いで、一刻も早く海自SBUを臨検に出動させたいだろう。あるいは、「瀬取り」の原油を積載して北朝鮮に帰るタンカーを海自ヘリで挑発し、艦の船員からヘリに小銃を発射させて既成事実を作るという謀略も考えられる。

安倍晋三の立場と論理に内在して考えたとき、南北融和と米朝対話の動きを邪魔するためには、この男はどんなことでも手段を選ばずやりたいだろう。支持率も高止まりしているし、9条改憲に世論を押し流すには絶好のタイミングと案件だし。