2016年1月2日土曜日

リテラが選んだ2015メディアタブー大賞(第10位〜大賞)

 LITERAが2015年度のメディアタブー大賞を発表しました。
 メディアタブーとは、メディアが様々な都合によって報道しないテーマのことで、いわゆる社会的同調圧力によって生じることもありますが、その対象が官邸やその他の政治的権力、巨大企業、さらには巨額な広告・宣伝費をもつ大企業に拡大していけば世の中はますます暗くなって行きます。
 正月休みに、かなり暗さを増した昨年の世相や政権の横暴を振り返ってみます
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浅田真央からセブンイレブン、又吉も
 …リテラが選ぶメディアタブー大賞2015 第10位〜第6位
LITERA 2015.12.31.
 2015年も残すところあと少し。テレビでは中身のないから騒ぎ特番が延々流されているが、リテラは今年もこうした空気に背を向けて、恒例の「メディアタブー大賞」をお届けしよう。
 いうまでもないが、新聞やテレビ、雑誌などの大手メディアは報道することのできない多くのタブーを抱えている。しかし、今年はこれまで以上にそれが目立った年だった。多くの事実が圧力でつぶされ、いくつもの意見が自主規制で封じられながら、あたかもそんな事態がなかったかのようにごまかされてきた。
 だとしたら、今年ほど、この企画が必要な年はないだろう。2015年、メディアが隠蔽し、凍りついた10のタブーを選び、もっともタブー度の強かったものに大賞を授与するこの企画。まずは、前編、10〜6位からいってみよう。
 
★10位 父親逮捕もメディアは沈黙、演技批判も自粛…浅田真央タブーはどこからくるのか
 
 引退説が囁かれたなかで現役復帰を表明したばかりのフィギュアスケート・浅田真央選手に今夏、降りかかったのが、「週刊新潮」(新潮社)が記事にした実父の交際女性に対するDVの末の傷害罪逮捕報道だ。国民的人気のアスリートの実父によるショッキングな逮捕劇──だが、テレビはこれを完全に黙殺、新聞も一部が小さなベタ記事で扱うだけにとどまった。
 しかも浅田選手の場合、この一件以前から、ネガティブな情報や浅田選手にとって気に入らない報道をしたメディアが激しい抗議にさらされ、すぐに謝罪・撤回するという状況がつづいていた。たとえば2008年、『とくダネ!』(フジテレビ)で「実力はキム・ヨナが上」と思わせるような発言が飛び出すと、ファンや視聴者が猛抗議。謝罪と訂正を行っただけでなく、浅田選手に厳しい評価をしたコメンテーターはその後しばらく番組に出演できない状況が起きたともいわれる。さらに評伝やエッセイ集の出版計画も、浅田選手サイドが取材方法や告知ポスターのコピーに不快感を示したことで2冊ともお蔵入り。国民的アイドルである浅田選手にメディアは気を使い、逆鱗にふれることを恐れてきた。
 
 こうした“真央ちゃんタブー”が生まれたのは、一説には逝去した母・匡子さんが娘をスキャンダルから守るために、気に入らない報道や記事に強固にクレームをつけてきたことが原因ともいわれている。が、母が亡くなったいまでも浅田選手のネガティブな情報をメディアがタブー扱いしているのは、浅田選手のマネジメント会社からの圧力だけでなく、熱心なファンからの抗議を恐れているからだという。
 もちろん父親の逮捕と浅田選手はまったく関係がなく、彼女に責任がないことは当然の話だ。しかし昨年、タレントのローラの父親が国際手配の末に逮捕された際、芸能メディアや週刊誌がこぞってこの事件を取り上げ、あたかもローラにも責任があるかのように報道したことと比較すると、メディアの反応は雲泥の差。
 父親の事件はともかく、冷静にアスリートとしての浅田選手を検証することさえ困難なこの状態は、本人にとってもよいとはいえない状況なのではないだろうか。
 
★9位 自殺者も続出!「ブラック企業大賞2015」に選ばれたセブン-イレブンを放置するメディアの罪
 
 今年の栄えある「ブラック企業大賞2015」を受賞した、コンビニ最大手・セブン-イレブン(以下、セブン)。本サイトでは以前よりセブンのブラック体質を追及してきたが、この大賞受賞を報じたのは一部のネットメディアのみ。新聞・テレビ、週刊誌は完全に無視を決め込んだ(唯一、スポーツ報知が報じたものの、なぜか30分もしないうちに削除された)。居酒屋チェーンのワタミや、すき家のゼンショーHDのブラック問題についてメディアがこぞって報じていたのに比べると歴然の差。まさに“セブイ-レブンタブー”と呼べるだろう。
 しかも、セブンのブラック体質はほかのブラック企業と比較しても闇が深い。奴隷契約のような本部有利のフランチャイズ契約、それに追いつめられて続出した加盟店オーナーの自殺、契約のしわ寄せによるアルバイト酷使と低待遇……。フランチャイズシステムそのものに搾取の構造が組み込まれており、個別の案件だけでなく、本来ならセブンイレブンの企業体質そのものが問われてしかるべき問題なのだ。
 
 しかも、こうしたセブンのブラック体質が一向に改善されないのには、メディアの問題と無関係ではない。
 本サイトでも繰り返し指摘したが、ひとつはセブンの巨大広告費の存在が大きい。たとえば2014年2月期には524億円もの広告費が投入されるなど、マスコミとってセブンは貴重な大スポンサーだ。また、週刊誌や新聞にとってもコンビニはいまや書店に代わって最有力の販売チャンネルであり、なかでも最大手のセブンに置いてもらえるかどうかは死活問題。さらにセブンの鈴木敏文会長は、雑誌や書籍の流通の生命線である取次大手「トーハン」の取締役も務めている。実際、鈴木会長の独裁体制による社内の閉塞状況をあばいた『セブン-イレブンの正体』(古川琢也、金曜日取材班/金曜日)が取次より配本拒否にあうという“圧力”事件も起こっている。
 数々の自殺者まで出ているにもかかわらず、その問題を報じることができない新聞やテレビ、週刊誌……。異常な搾取構造を自社の利益のために放置するメディアの罪は重い。
 
★8位 又吉直樹・芥川賞受賞&『火花』絶賛の嵐で出版界に誕生した“又吉タブー”とは
 
 今年出版界で最大の話題となったのは、なんといってもピース・又吉直樹の芥川賞受賞と『火花』(文藝春秋)230万部のヒットだろう。今年の書籍と雑誌の販売額は、前年より5%減の1兆5200億円程度で、1兆6000億を下回るのは32年ぶり。落ち込み幅も統計開始の昭和25年以来、最大となった。そんななかで唯一、明るい話題となったのが又吉センセイの活躍だった。しかし、これによって新たな“作家タブー”が誕生したのだ。
 現在も又吉には、小説・エッセイの執筆、いやせめてインタビューだけでも載せたいと編集者たちが列をなしている状態。そうなると、週刊誌はスキャンダルどころかちょっとした悪口も書くことはできない。実際、芸能人のスキャンダル記事が毎号のように賑わう週刊誌だが、又吉の芥川賞受賞以降、彼の美談しか掲載されていないのだ。
 また、こうした作家タブーという構造的な問題とは別に、又吉本人だけではなく、作品に対しても“悪く言ってはいけない”という空気が流れている。
 というのも、又吉自身の本が売れるのはもちろん、読書家の又吉はほかの小説作品もテレビや雑誌などで積極的に推薦、出版界にとってはスポークスマンの役割も進んではたしてくれる、非常にありがたい存在となっている。たとえば、芥川賞ノミネート直前に出演した『アメトーーク!』(テレビ朝日)で又吉は、中村文則の『教団X』(集英社)を紹介。ライト層にはハードルの高い純文学にもかかわらず、『教団X』はバカ売れした。
 このように、又吉の出版界に対する影響力は絶大であり、それゆえ又吉作品を批判できない空気がつくり上げられてしまったのだ。それは出版界だけの話ではなく、読者側も同様だ。現に『報道ステーション』で古舘伊知郎が「芥川賞と本屋大賞の区分けがだんだんなくなってきた気がするんですけどね」「僕なんかの年代は『あれ?』っていう感じもちょっとするんですけどね」と雑感を述べただけで、たちまちネットは炎上した。
 しかし、純文学の批評では、多少の批判が出るのはいたってふつうのこと。芥川賞の受賞作に対して「話題狙いじゃないのか」「あの作品のほうが出来は上」などと賛否が語られるのは定番であり、文学観はそれぞれだから賛否あって当然。だが、又吉の『火花』についてはそれすらないのだ。
 もちろん、本人が意図してバッシングを封じ、作品批評をタブー化しているわけではない。しかしあまりにも出版界の“神様、仏様、又吉様”頼みは目に余る……というわけで8位という高順位に。来年は出版界も、又吉ひとりにすべてを負わせるような事態にならなければいいのだが。
 
★7位 原発タブー、完全復活!原発再稼働で広告バラマキ&芸能人・文化人の囲い込みの悪夢が再び!
 
 今年は原発再稼働に向けて大きな舵が切られた1年だった。8月には川内原発が再稼働、先日も福井地裁が高浜原発再稼働の差し止めを命じた仮処分決定を取り消し、同じく大飯原発の3、4号機を再稼働しないよう求めた住民の申し立てを退けたばかりだ。
 だが、本サイトも報じたように、これらの裁判の裏では裁判長の“左遷”人事が行われるなど、裁判所による露骨な“原発推進人事”があった。しかし、そうした事実をメディアはほとんどスルー。しかも、先日明らかになった川内原発再稼働の前提となっていた免震重要棟の新設計画を撤回したという重大な問題も、一部の新聞メディアを除いて、大きく取り上げられることはなかった。
 それだけではない。産経新聞や夕刊フジ、産経のウェブサイト「産経ニュース」などの産経メディアでは、「高レベル放射性廃棄物の最終処分」なるシリーズ記事を掲載。タレントの春香クリスティーン、哲学者の萱野稔人氏、社会学者の開沼博氏などのタレント、学者らが座談会やインタビューで核のごみ問題を語った。じつはこれらは記事広告であり、出稿主は原子力発電環境整備機構(NUMO)だ。しかも悪質だったのは、一見するとそれらがパブ記事広告だとは見分けがつかないようになっていたこと。ようするにNUMOはあたかもメディア独自の記事のようにプロパガンダを展開したのだ。
 こうした広告がNUMOからばらまかれたのは、産経だけではない。今年10月には読売新聞、秋田魁新報、福島民報、北日本新聞、山梨日日新聞、中国新聞、高知新聞、南日本新聞などにも15段ぶち抜きの広告が大々的に展開され、「日経ビジネス」(日経BP)などの経済誌にもパブ記事を頻繁に掲載している。
 
 高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる啓蒙活動は、原発再稼働とは完全にセットの問題である(過去記事参照)。つまり福島の原発事故以前のように、ディアに広告をばらまくことで再稼働の問題検証や反対論を抑え込み、さらにはメディアや芸能人、文化人の“原子力ムラ”という利権共同体への取り込もうと本格的に動き出したのだ。
 現に、日経広告研究所が毎年発行している『有力企業の広告宣伝費』の13年度版と14年度版を見比べると、東京電力の宣伝広告費は16億9800万円から30億1000万円へと倍増。東北電力も36億7800万から40億5100万円と増加している。これは11年度以降初めての傾向だ。そして、業界団体である電事連や、本稿で取り上げているNUMOなど、関連団体の広告予算は公表されていないが、かなりの水準で上昇していると言われている。
 また、昨年には、博報堂とアサツーディ・ケイという大手広告代理店が日本原子力産業協会に加盟し、以前から加盟していた電通をふくめて、国内トップ3が原子力ムラのスクラムにがっちりと組み込まれる体制となった。
 そして、原発事故後、大きな批判を受けた“カネの力によって黙らされるマスコミ”という構図は、確実に復活しつつある。たとえば9月に公開された、原発へのテロを題材にした東野圭吾原作の映画『天空の蜂』も、人気監督の堤幸彦がメガホンを取り、江口洋介や本木雅弘、綾野剛、向井理、仲間由紀恵などという豪華キャストだったにもかかわらず、マスコミによる試写会や舞台挨拶の模様の扱いはきわめて小さかったのは象徴的だった。
 この調子だと、原発タブーは来年も、さらに強固になっていくのは必至だろう。
 
★6位 新聞もテレビも「増税賛成」! 官邸と財務省に支配された消費税議論
 
 来年4月に10%に引き上げられる消費税の増税問題。テレビや新聞は食料品をめぐる軽減税率の話題を大きく取り上げたものの、景気が頭打ち状態のなかで増税を行うことの是非を問うことは一切なかった。
 それは、財務省の幹部が以前から「ご説明」と称して、テレビ、新聞各社の報道幹部のもとを訪れ、籠絡していたからだ。実際、2014年の増税の際にも、すべての新聞、テレビが全面賛成。反対を主張する社はひとつもなかった。
 今回の軽減税率の対象品目拡大についても、参院選の人気取り政策にすぎず、実際は富裕層ほど負担が少ない逆進性をカバーすることができないのは、明らかだったが、しかし、新聞もテレビもその点に一切触れず、「何が対象品目になるか」という話題で国民の目を反らし続けた
 安保法制でさえ反対の姿勢を打ち出す新聞があったことを考えると、この問題のタブー性がいかに強固であるかがよくわかるだろう。
 
 実はこの背景には、新聞の国民に対する裏切り行為があった。新聞各紙は一方で増税に賛成しながら、自分たちの商品である新聞を軽減税率の対象にするよう政府、自民党に働きかけ、交渉の末、それを勝ち取っていたのである。しかも、この新聞への軽減税率適用はかなり前からほぼ決まっていたが、正式発表されるまでテレビ、新聞ともほとんど報じなかったのだ。
 これは、何も、新聞が自分たちだけ利益誘導したというだけの話ではない。マスメディアの使命は“権力の監視”であるにもかかわらず、政治権力に頭を下げて、こんな借りをつくってしまったら、今後、新聞が政権批判や政策批判ができなくなるのは目に見えているではないか。テレビ局が放送法で完全に政権に首根っこを押さえつけられている中、新聞までが軽減税率で政権にさからえなくなったら、もはやこの国に政権批判ができてかつ一定の影響力を持った報道機関はなくなってしまうということである。
 オーバーではなく、この軽減税率問題が日本の「報道の自由」崩壊のダメ押しになるかもしれない。
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 まずは10位〜6位をざっと紹介したが、いかがだっただろうか。言論状況の閉塞、メディアの体たらくにはつくづく閉口してしまうが、つづけて発表する5〜1位は、もっと暗澹とするようなタブーが続々ランクインしている。しかし、どうか後編も記事に目を通し、2015年の最後の日、この国のメディアの現実に向き合っていただきたい。(編集部)
 
 
安倍、橋下、憲法がタブーに…リテラが選ぶメディアタブー大賞2015 第5位〜第2位、そして大賞発表!
LITERA 2015.12.31.
 年末恒例リテラ編集部が選ぶ「メディアタブー大賞」、つづいて、5〜2位、そして栄えある(?)大賞を発表しよう。いったい今年、メディアを凍りつかせたのはなんだったのか!
 
★5位 罵倒されても橋下徹に尻尾を振り続けた在阪メディア!「橋下劇場」の共犯者はマスコミだ
 
 今月、おおさか維新の会代表を引退し、18日に大阪市長を任期満了、政界から引退した……はずの橋下徹氏。が、政界引退早々、安倍晋三首相、菅義偉官房長官の2人と改憲について話し合ったり、さらには法律政策顧問という肩書きで夏の参院選に向けたおおさか維新の公約づくりに参加することが発表されるなど、「これで政界引退って言うの?」という状態に。しかも本人は「私人」であることをアピールし、「社会的評価を低下させる表現に対しては厳しく法的対処をしていきます」と恫喝のようなツイートまで行っている。
 この、最後までやりたい放題だった橋下氏に対して、在阪メディアは問題を追及するどころか、尻馬に乗るという愚行を働きつづけてきた。いや、この8年間、橋下氏が気に入らない記事や番組、それを報じた新聞社やテレビ局、ときには記者やコメンテーターの個人名まで挙げて激しく口撃しつづけた結果、メディアは完全なまでに橋下氏に取り込まれてしまったといっていい。
 たとえば、橋下氏がぶち上げた「大阪都構想」をめぐっては、反対派の急先鋒だった藤井聡・京都大学大学院教授に対して「バカな学者の典型」「この、小チンピラ」とツイッター上で罵るだけでなく、テレビ各局に「藤井を出すな」という内容の“要請文”を出していたことが発覚。もちろん文書では、自民党の“伝家の宝刀”となった〈放送法四条における放送の中立・公平性に反する〉という、放送法を曲解した脅し文句も御多分に洩れず忘れていない。
 こうした状況もあって在阪メディアはすっかり萎縮。いざ都構想の住民投票を控えても、テレビの番組はほとんどで「賛成派はこう言っている、反対派はこう言っている」と動向を並列に伝え、表面的な解説やコメントを加えるだけ。ワイドショーや情報バラエティのなかにはそもそもこの問題を取り上げようとしない番組さえあった。
 しかし、こうして都構想の反対意見は影を潜め、橋下氏に配慮した番組づくりが横行していったにもかかわらず、大阪市民が住民投票によって下したのは「NO」という結果だった。そうして橋下氏は政界からの引退を発表するにいたるが、その会見でも、不自然なまでの笑顔とサバサバした口調で自らの潔さをアピール。本来ならば都構想問題が総括されるべき場であったのに、マスコミは逆に橋下氏が目論んだ“イメージアップ会見”をアシスト、「70万人の方が都構想に賛成した」「(引退)発言を覆してほしいと思っている有権者も多い」などとさんざん持ちあげるだけでなく、「お疲れさま」「やめないで」とラブコールを連呼したのだ。
 だが、橋下氏はそんな会見での態度を一転させ、手のひら返しで「大阪維新の会」の国政政党化を表明。当然ながらこの無節操をメディアが追及することもなく、11月に行われた大阪府知事・市長のダブル選挙ではおおさか維新の会が圧勝を果たした。そして12月の退任会見では、冒頭から橋下氏が一方的にメディア批判を繰り出したにもかかわらず、対する記者たちは「エネルギーが枯渇したようにはまったく見えない」などとヨイショしつづけたのだ。
 批判は封じ込めようとし、自分にとって都合のよい情報を流すメディアを優遇する政治家に、まんまと籠絡されてしまった在阪メディア……。橋下氏がこの後、国政に進出したら、大阪で起きたことが全国規模で起きる可能性もあるし、権力が衰えないかぎり、今後もつづいていくだろう。
 
★4位 東京五輪問題の根本的戦犯である電通の利権独り占めに触れないテレビ・新聞、週刊誌
 
 新国立競技場をめぐるドタバタ劇に、佐野研二郎氏のエンブレム騒動など、今年のメディアを賑わせつづけた2020年東京オリンピック問題。これらの戦犯として東京五輪組織委員会の森喜朗会長の名が取り沙汰され、週刊誌ではその責任を問う声が見られたが、しかし、その裏でメディアが追及しなかったのが、電通と博報堂という大手広告代理店の責任問題だ。
 たとえばエンブレム問題では、審査委員長の永井一正氏は佐野氏が博報堂時代に師事した間柄で、審査委員の長嶋りかこ氏も博報堂時代の佐野氏の部下だったりと、裏には博報堂人脈があった。また、公式エンブレムの公募開始前に佐野研二郎氏をふくむ8名のデザイナーに応募を要請し、2次審査へ進ませるよう要望、永井氏に耳打ちして投票を行わせていたのは、槙英俊・組織委マーケティング局長と、組織委クリエイティブ・ディレクター兼審査委員の高崎卓馬氏という電通からの出向組だった。さらに、高崎氏はパクリが発覚したサントリーのトートバッグなど、電通の仕事でも、佐野氏を重用しており、エンブレムでも佐野氏をプッシュしたとの疑惑が浮上した。
 こうした“広告クリエイター村”の癒着については一部週刊誌でも問題視する論調が見られたが、しかし、問題の本質はもっと根深い。
 そもそも2020年の東京五輪は、招致活動から一貫して電通が食い込み、開催決定後はマーケティング専任代理店に選ばれたという経緯がある。つまり、あらゆるマーケティングや広告利権をすべて電通に集約させるよう動いていたのが、高崎氏ら社員だったのだ。本来はこの根本の問題こそ追及されるべきなのだが、電通といえばテレビや新聞、雑誌という日本のメディアの広告を牛耳る巨大組織。兵站である社員は批判できても、本丸をバッシングすることはできない、というわけだ。
 槙氏と高崎氏は事実上の更迭という人事がなされたが、これはたんなるトカゲの尻尾切り。電通の利権ひとり占めという構造的問題は、メディアによって掘り下げられることはないまま、2020年まで放置されていくはずだ。
 
★3位 東芝の不正事件で「粉飾決算」表現を封印! 裏には原発タブーと安倍政権との癒着が
 
 総額2000億円超の巨額“粉飾”が発覚した東芝事件は、国策に関与する巨大旧財閥系企業がこの国では。いまなおタブーになっていることを証明したといえるだろう。
 というのも、この問題に対する新聞・テレビの動きの鈍さは異常とも言えるものだからだ。
 東芝が巨額売り上げ水増ししていることは、すでに今年4月の段階でSESC(証券取引等監視委員会)に告発がなされており、5月には各社ともかなりの証拠をつかんでいた。ところが、メディアは当初、ほとんどこれを報道しようとしなかった
 7月21日には粉飾決算を調査した第三者委員会報告書の全文が公表され、過去7年間で1500億円を超える利益の水増しの事実に加え、歴代の経営トップが関与して“不適切会計”が行われたことが明らかになったが、この時も報道は散発的。ライブドアやオリンパス、山一証券事件の時に見せたような厳しい追及はまったくなかった。
 とくに唖然とさせられたのは、第三者委員会が利益水増しを確定した段階でも、「粉飾決算」という言葉を使わず「不適切会計」というあいまいな言葉を用いたことだ。
 マスコミのこうした弱腰の理由のひとつはもちろん、東芝が大スポンサーだからだ。東芝はグループ全体で年間329億円もの宣伝広告費を計上しており、これは日本の企業ではかなり上位に入る。それに配慮して、自主規制しているというのはあるだろう。
 だが、マスコミにはもうひとつ、この東芝問題に触れられない理由があった。東芝は11月にも“疑惑の本丸”といわれていた原子力事業の損失隠しが発覚したが、その問題の中心人物というのが佐々木則夫元社長だった。
 じつは佐々木元社長は社内で「原発野郎」と揶揄されるほどの人物で、第二次安倍政権発足後、政権に深く食い込んで海外への原発売り込みにも積極的に関わっていた。詳しくは本サイトでも追及しているが(過去記事参照つまり、たんなる一企業の経営問題ではなく、背後に安倍政権と原発ビジネスが絡んでいたのだ。
 実はこの事件については、こうした政権との関係から検察の動きも非常に鈍い。たとえば、ライドア事件ではわずか53億円の粉飾金額で堀江貴文元社長が刑事摘発され、その他の粉飾事件でも経営幹部がことごとく起訴されているが、東芝については全く動きがないのだ。
 12月末には、一部のメディアでSESC(証券取引等監視委員会)が田中久雄、西田厚聡、そして佐々木則夫の歴代3人の社長を検察に刑事告発する方針を固めたと報道されたが、予断は許さない。一応、刑事事件として捜査するポーズをとるだけで、検察で起訴猶予になるだろうともいわれている。
 だが、こうした権力との癒着についても、マスコミはまったく取り上げることはない。この先も、刑事事件にならないかぎり、マスコミが東芝を追及することはないだろう。
 
★2位 政策批判も金銭問題も…安倍政権の圧力はテレビ、新聞、週刊誌にまで!菅官房長官の恐怖支配
 
 この1年、もっともメディアのタブー化が進んだのが、政権批判だろう。とくに安保法制をめぐる議論では、テレビは昨年末に自民党が送りつけた“圧力文書”が影響し、TBSの『NEWS23』や『報道特集』などの一部番組や、テレビ朝日『報道ステーション』などを除いては、ただ政権の言い分を垂れ流すような報道姿勢に終始。とくに『報ステ』での古賀茂明氏による「I am not Abe」発言では、官邸は大激怒。古賀氏のコメンテーター降板やプロデューサー更迭という問題にまで発展した。
 新聞も同様だ。読売と産経が露骨な政権支持を紙面化しただけでなく、昨年の誤報問題が尾を引いてか、朝日までもが弱腰に。毎日や東京新聞などの一部ブロック紙、地方紙が奮闘したものの、ほぼ大手新聞は安保法制の問題や政権側の説明の矛盾点などの正当な検証を怠った。
 まさに体たらくと呼ぶほかないが、じつはメディアが沈黙したのは安保法制の問題だけではない。新国立競技場の建設問題でも、その戦犯として東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長への追及は行っても、安倍首相の責任にふれるメディアはほとんどなし。計画の白紙撤回時には、あたかも安倍首相の英断であるかのように報道されたが、そもそもIOC総会で「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから確かな財源措置に至るまで、その確実な実行が確証されている」と宣言したのは安倍首相ではなかったのか。
 しかも、安倍政権が圧力によって批判を封じ込めたのは、テレビと新聞だけではない。
 たとえば、今年「週刊ポスト」(小学館)は、4月に高市早苗総務相の大臣秘書官をつとめる実弟が関わったとされる「高市後援会企業の不透明融資」問題を、つづく5月には菅義偉官房長官の日本歯科医師連盟(日歯連)からの3000万円迂回献金疑惑を報じた。しかも菅官房長官の疑惑はただの噂レベルではなく、政治資金収支報告書からも読み取れる明らかなもの。本来なら、一大政権スキャンダルに飛び火しておかしくないネタだ。
 だが、「ポスト」の報道に官邸は激怒。まず、高市総務相の問題では、高市氏の実弟がすぐさま「ポスト」を名誉毀損で訴えたが、これが当時の三井編集長だけでなく、発行人の森万紀子氏、担当編集者、ライターまでをも被告にするというスラップ訴訟だった。さらに高市氏の実弟は警視庁への刑事告訴まで行った。じつはこの訴訟は菅官房長官の指示によるものとされているのだが、今度は自分の迂回献金疑惑が報じられてしまい、菅官房長官は怒り心頭。会見で「ポスト」への訴訟をちらつかせた。結果、「ポスト」は三井編集長を更迭し、政権批判は完全にトーンダウンしてしまった。もちろん、高市総務相と菅官房長官の金銭問題を、テレビと新聞は後追いすることなくほぼ無視しつづけたのは言うまでもない。
 その後、安倍首相の体調不良問題を報じた「週刊文春」(文藝春秋)や「週刊現代」(講談社)にも抗議を行うなど、テレビや新聞だけでなく、ついに週刊誌にまで圧力をかけはじめた安倍政権。なかでもいまメディアがもっとも恐れているのは、菅官房長官だ。強硬にメディアの政権批判封じを行うその姿勢に、新聞もテレビも、そして週刊誌編集部も震え上がっているという。
 その結果、どんな事態が日本に起こってしまったのか。それが次に紹介するタブーである。
 
★メディアタブー大賞 「憲法を守る」がタブーになるという異常な状況!安倍政権による憲法攻撃は来年、さらに激化する!
 
 安倍政権がメディアに睨みをきかせ、放送法や訴訟をちらつかせつづけた結果、信じがたい異常な事態が生み出されてしまった。それは、「憲法を守ろう」という法治国家の大原則の声すらタブー化してしまう、というとんでもない状態だ。
 昨年も、NHKが天皇・皇后による「平和と民主主義を、守るべき大切なもの」という発言をカットするという事件があり、憲法タブーが3位にランクインしたが、今年はこれが文句なしの第1位、「メディアタブー大賞」だ。
 何しろ、「憲法九条を守ろう」という集会を開こうとしただけで公共施設が「政治的な主張の集会には会場は貸せない」と拒否する事例が相次いだり、東京都日野市の市役所は封筒に印刷された「日本国憲法の理念を守ろう」という文言を黒いフェルトペンで塗りつぶだれていたり、とまるで戦前のような光景が繰り広げられているのだ。
 あらためて言うまでもないが、「憲法を守る」ことは公務員や政治家にとって義務だ。しかし、第二次安倍政権が地道に憲法問題をタブー化してきた結果、「憲法を守る=政治発言」という風潮がすっかり根付いてしまったのである。
 それはメディアも同じだ。本サイトでも詳しく報じたが(過去記事参照、例年なら憲法記念日前後にテレビのニュース番組では憲法特集を行ったり、全国で開かれた憲法イベントを詳しく紹介するはずだが、今年は『サンデーモーニング』や『NEWS23』(ともにTBS)などのごく一部の番組を除いて、ほとんどすべての番組がストレートニュースとして紹介。とくにフジテレビはストレートでも取り上げることはなく、憲法のケの字すら出てこない始末だった。
 つまり、護憲か改憲かではなく「憲法問題にふれる」こと自体が禁忌になりつつある状況下で審議されたのが安保法制だったのだ。たしかにこんな状態では、いくら根本的な問題として「安保法制は違憲」「立憲主義に反している」と声が湧き上がっても、一部メディアを除いてまともに取り上げられることはなかったわけだ。
 しかも、もっと恐ろしいのは、「憲法を守れ」という当然の声が、警備や警察の取り締まり対象になりつつあるという現実である。こちらも本サイトで詳しく紹介したが(過去記事参照)、「No.9(憲法9条)」と書かれた缶バッチを身につけているだけで国会本館や議員会館では警備員に入館を制止されたり、国会周辺で「平和がだいじ」と書かれた絵本袋を持っているだけで職務質問を受けるという事例が発生。音楽評論家でラジオパーソナリティであるピーター・バラカン氏も、「9条のTシャツを着ているから」という理由だけで警官に呼び止められたエピソードを自身のラジオ番組で明かしていた。
 ようするに、戦中、政府が特高警察によって戦争反対の意見を持つ市民を社会主義者や共産主義者という“思想犯”に仕立て上げて取り締まったのと同じように、いま、「9条」や「平和」のメッセージを身につけているだけで、“危険思想”の持ち主かであるかのように扱われる事態が起きているのだ。
 この背景には、間違いなく安倍政権が進める“改憲への道”がある。安倍首相が描く“改憲スケジュール”は待ったなしで、本格的着手は来年の参院選後と言われているが、自民党や日本会議などの右派勢力は改憲の世論づくりのために、あらゆる場所で日本国憲法への攻撃を強めている。
 この流れは間違いなく今後、テレビや新聞にも踏襲されていくはずだ。何度も繰り返すが、現行憲法を守ることは、安倍首相をはじめすべての政治家、すべての公務員に義務づけられている。しかしこの異常な空気のままで改憲の議論に雪崩れ込めば、メディアは護憲の意見を封殺し、憲法批判を繰り出すだろう。はっきり言って、戦後最悪の言論状況と言わざるをえない。
 すでに官邸の圧力によってTBS上層部は『NEWS23』のアンカー・岸井成格氏、膳場貴子キャスターの降板を画策し、『報ステ』にいたっては古舘伊知郎が降板を発表した。もうすでに来年の改憲議論へ向けて布石はメディアに打たれている。
 この安倍政権がつくりだしたタブーをメディア自身が打開しなければ、ほんとうにこの国は、戦前に戻ってしまうだろう。 (編集部)