2015年6月29日月曜日

メディアは日米支配層の意向に反する報道をしない

 28日付の櫻井ジャーナルは、日本を含むいわゆる西側のメディアに対して極めて辛辣な論評を載せました。
 日本のメディアが劣化しているのは明らかなことで、メディアのトップと首相との食事会も常態化しています。いまや海外の報道陣の目に映る、日本のメディアの「政権からの自由度」のランキングは60位台にまで落ちました。
 
 日本ではずっと以前から、メディアは政権が倒れるという見込みが立たないうちは批判をしないという不思議さがありました。唯一の例外は民主党の鳩山政権の打倒でしたが、それは官僚などの働きかけに従ったもので、やはり「真の権力」にはメディアは従属していたのでした。
 
 識者の解説によって西側メディアの実態を管見するなかで、日本のメディアの実態もそうした視点で見直す必要がありそうです。 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
TPPにしろ原発にしろ戦争にしろ、日米支配層の意向に反する「報道」をマスコミは例外なくしない
櫻井ジャーナル 2015年6月28日
 今年2月までNHKの経営委員を務めていた百田尚樹は「本当につぶれてほしい」新聞として朝日新聞、毎日新聞、東京新聞を挙げたという。この3紙の評価は上がったかもしれないが、日米支配層のプロパガンダ機関という点で読売新聞、産経新聞、日経新聞と大差はない。百田はリベラルを装いたい朝日新聞の回し者ではないか、と思われても仕方がないような発言をしている。
 
 ジャーナリストのむのたけじは1991年に開かれた「新聞・放送・出版・写真・広告の分野で働く800人の団体」が主催する講演会の冒頭、「ジャーナリズムはとうにくたばった」と発言、その後、マスコミから疎んじられるようにようになったらしいが、この指摘は事実。(むのたけじ著『希望は絶望のど真ん中に』岩波新書、2011年)竹中労の表現を借りるならば、「言論」は「強権のドレイ」にすぎない。
 
 最近の「報道」を見ても、TPP/TTIP/TISAの問題点、例えばISDS条項の話は避けているほか、イラク、リビア、シリア、イラン、ウクライナなどでの戦闘に関する話はアメリカ(ネオコン)が作り上げた偽情報を垂れ流しているだけ。アル・カイダが何を意味しているのか、あるいはIS(イラクとレバントのイスラム首長国。ISIS、ISIL、IEIL、ダーイシュとも表記)にどのような歴史があるのかといったことは知らん振り。日米支配層にとって都合の悪い事実は決して伝えてこなかった。
 
 IMFの元ギリシャ代表によると、IMFは自分たちに都合の悪い事実を隠し、都合の良いストーリーを広めるためにギリシャのジャーナリストをワシントンDCで訓練してきたそうだが、日本の記者も同じだという話を聞く。それだけでなく、国内では記者クラブという仕組みでシステム化されている
 
 ウォーターゲート事件を暴き、リチャード・ニクソン大統領を辞任に追い込んだワイントン・ポスト紙を「言論の自由」の守護神であるかのように考え、信奉している人もいるようだが、その事件を実際に取材していたカール・バーンスタインは1977年にワシントン・ポスト紙を辞め、その直後に「CIAとメディア」という記事をローリング・ストーン誌に書いている。それによると、まだメディアの統制が緩かった当時でも400名以上のジャーナリストがCIAのために働き、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。(CarlBernstein,“CIAandtheMedia”,RollingStone,October20,1977)
 
 ちなみに、デタント(緊張緩和)へ舵を切ったニクソンが排除された後、ジェラルド・フォード政権ではドナルド・ラムズフェルドやリチャード・チェイニーを中心とする好戦派が主導権を握り、デタント派は粛清された。ポール・ウォルフォウィッツなど後にネオコンと呼ばれる「イスラエル第1派」が台頭したのもこのとき。
 
 昨年8月にはドイツの経済紙ハンデスブラットの発行人、ガボール・シュタイガートは「西側の間違った道」と題する評論を発表したが、その中で軍事的な緊張が高まったのはロシアがクリミアを侵略したためだったのか、それとも「西側」がウクライナを不安定化したからなのかと問いかけている。
 
 勿論、仕掛けたのはアメリカ。2013年11月に始まった反政府行動は翌年2月中旬から暴力的になるが、その中心グループはNATOの訓練を受けたネオ・ナチだった。2月18日頃からネオ・ナチはチェーン、ナイフ、棍棒を手に、石や火炎瓶を投げ、ブルドーザーなどを持ち出し、ピストルやライフルを撃つ人間も現れた。
 
 2月21日にヤヌコビッチ大統領と反ヤヌコビッチ派が平和協定に調印したが、22日に狙撃で多くの死者が出始め、議会の議長を務めていたボロディミール・リバクは「EU派」の脅迫で辞任した。この日、後任のアレクサンドル・トゥルチノフを議会は大統領代行に任命するが、これは憲法違反。このクーデターを日本では「護憲派」も支持していた。
 
 事態を劇的に悪化させた狙撃を行ったのが反ヤヌコビッチ派だということはEUも知っていた。2月25日にキエフ入りして調査したエストニアのウルマス・パエト外相は翌日、キャサリン・アシュトンEU外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)に対し、反政府側が実行したと強く示唆しているのだ。
 
 こうしたことを念頭に、シュタイガートは問いかけたということ。「西側」は戦争熱に浮かされ、政府を率いる人びとは思考を停止して間違った道を歩み始めたと彼は批判している。
 
 西側の「ジャーナリスト」が事実に反する「報道」をする理由について、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙で編集者を務めていたウド・ウルフコテは、ドイツを含む多くの国のジャーナリストがCIAに買収され、例えば、人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開していると告発している。
 
 そうした仕組みを作り挙げるため、アメリカの支配層はドイツの有力な新聞、雑誌、ラジオ、テレビのジャーナリストをあごあしつきでアメリカに招待、そうして築かれた「交友関係」を通じてジャーナリストを洗脳していく。日本にも「鼻薬」を嗅がされたマスコミ社員は少なくないと言われている。
 
 ウルフコテは今年2月、この問題に関する本を出しているが、その前からメディアに登場し、告発に至った理由を説明していた。ジャーナリストとして過ごした25年の間に教わったことは、嘘をつき、裏切り、人びとに真実を知らせないことだという。彼が告発を決意したのは、ドイツやアメリカのメディアがヨーロッパの人びとをロシアとの戦争へと導き、引き返すことのできない地点にさしかかっていることに危機感を抱いたからのようだ。
 
 こうした買収工作がなくてもメディアはプロパガンダ機関になる構造的な問題がある。マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授はその原因として5つの理由を挙げている。
 
 第1に、新聞にしろ放送にしろ、相当の資金力がないと情報を発信する体制を整えることができないため、中低所得層の立場から報道するメディアは少なくなる。巨大資本にしてみるとメディアを維持するコストは小さく、規制緩和でメディアは巨大資本に所有されるようになった
 第2に、主な収入源である広告主に逆らうことは困難だということ。手間ひまかけて内容のある報道をするよりも、当たり障りのない記事を書き、番組をつくって広告を取った方が「コスト・パフォーマンス」が良いと考えるマスコミ経営者は少なくない。2008年11月にはトヨタ自動車の相談役だった奥田碩は首相官邸で開かれた「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」で、「正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうか」と発言している。
 第3に、メディアは支配層とのトラブルを避けるためにも情報源を政府や大企業、あるいはそうした支配層からお墨付きを得た「専門家」たちに頼っていることがある。東電福島第一原発の炉心溶融事故やイラク戦争で嘘を言っていたことが判明している「専門家」が今でもマスコミで重用されていることを見ても、マスコミが事実に興味がないことは明白だ。
 第4に、支配層からの圧力や脅しへの恐怖がある。特に日本のマスコミ関係者はそうした圧力や脅しに弱い。
 第5に、「反コミュニズム」というイデオロギー。大企業のカネ儲けシステムにとって障害になりそうな人物、団体、システムは「コミュニズム」のレッテルをはって攻撃してきた。ウクライナの問題では「反ロシア」、あるいは「嫌露」の感情が事実を封印している。事実を直視して分析するのではなく、感情を正当化するために事実をねじ曲げている人も少なくない。
 
 もし、百田が本当に朝日新聞、毎日新聞、東京新聞を潰したいと考えているとするならば、彼は現状を把握できていないと言えるのだが、ほかの問題でも彼は事実を軽視しているので、自分が入り込んでいる妄想の世界に浸っているだけなのだろう。その妄想に合ったストーリーを語っている。フィクションの語り手としては優秀なのかもしれない。