2014年2月24日月曜日

自衛権発動の3要件は変更できない 集団的自衛権行使の矛盾

 安倍首相の私的法制懇の北岡伸一座長代理は21日、記者会見で、歴代政権が憲法上禁じられているとしてきた集団的自衛権の行使を可能にするための5つの要件を、報告書に盛り込むことを明らかにしました。
 そして同時に、内閣法制局=内閣が基準としている「(個別)自衛権を発動するに必要な3つの要件」は変更できないともしました。
 
 このことは「集団的自衛権行使を可能とする」という結論ありきで進んだ懇談会でも、その結論が憲法9条から逸脱したものであることを告白したものに他ならず、「集団的自衛権の行使可能」というのは、憲法上の根拠を持たない単なる「希望」の表明に過ぎないことを物語っています。現憲法下では「行使可能」の合理的な根拠を得られないことを明らかにした点は、この私的懇談会の唯一の成果かも知れません。(^○^)
 
 首相やその取り巻きだけが熱くなっている解釈改憲は、そもそも国民的合意に基いたものではありません。それなのに首相の私的懇談会の「希望」に過ぎない結論を口実にして、安倍氏は国会審議に先立って強行的に「集団的自衛権の行使可能」の憲法解釈を閣議決定しようとしています。憲法にかかわるこうした問題を国会の頭越しに進めるのは、いうまでもなく三権分立を揺るがす重大問題です
 首相はまた盛んに憲法「不磨の大典ではなく正面から向き合って変えてこそ、戦後体制からの脱却になる」と述べますが、こうした歴史観、憲法観こそ国民論議が必要だと琉球新報の社説は述べています
 
 とにかく安倍氏好みの考え方の有識者が集まって長期間審議した結果でも、上述した程度の結論しか出せないことについて、安倍首相は一体どう考えているのでしょうか。
 この問題では、安倍氏自身の論理的思考能力が問われているという自覚はあるのでしょうか。
 
 以下に、しんぶん赤旗の法制懇北岡代理の自衛権発動の3要件は変更できない」とした記者会見琉球新報の「解釈改憲の強行許されぬ」とする社説、それに「歯止め役は公明党」とする東京新聞の記事を紹介します 
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集団的自衛権「5要件」 自衛権発動との矛盾消えず 安保法制懇
しんぶん赤旗 2014年2月23日
  政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が4月にも提出する報告書の概要と、「戦争する国」づくりへの法整備の道筋が見えてきました。
 法制懇の北岡伸一座長代理(国際大学長)は21日の記者会見で、歴代政権が憲法上、禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にするための「5要件」(別項)を報告書に盛り込む考えを示しました。その上で、閣議決定による憲法解釈の変更が望ましいとの考えを示しました。
 
 さらに、政府解釈の変更を受けて、周辺事態法やPKO(国連平和維持活動)協力法といった既存の海外派兵法の改定も明言しました。周辺事態法では、集団的自衛権を行使できないという建前上、米軍に対する自衛隊の支援は「後方地域」に限られています。この解釈を変更して、戦闘地域での日米共同作戦に道を開く狙いです。
 
 ただ、安倍政権の思惑通りに進む保証はありません。
 政府は憲法9条の下で武力行使=自衛権を発動できるのは、(1)急迫不正の侵害(2)他に適当な手段がない(3)必要最小限―に限っています。これに対して集団的自衛権は、日本以外の他国への武力攻撃があった場合に発動されます。「自衛のための必要最小限を超える」というのが政府見解です。北岡氏は自衛権発動の3要件は「変更できない」と述べ、現時点でこの矛盾を乗り越えられないことを認めました
 
 また、海外派兵を無原則に認める「国家安全保障基本法」については、与党内の調整もあり、「時間がかかる」との見方が政府内で強まっています。周辺事態法などの個別法改定を先行させるのはそのためです。
 さらに、閣議決定による解釈変更については、政府による恣意(しい)的な解釈変更を許すことになり、改憲派からも「立憲主義を脅かす」として危惧(きぐ)の声が相次いでいます。
 
集団的自衛権「5要件」
(1)密接な関係にある国が攻撃された場合
(2)放置すれば日本の安全に大きな影響が出る場合
(3)当該国からの明示的な支援要請がある場合
(4)第三国の領海通過では許可を得る
(5)首相が総合的に判断して国会承認を受ける
 
「戦争する国」づくりの法整備の流れ(北岡伸一氏の想定)
 4月 安保法制懇が報告書を提出
~6月 閣議決定で憲法9条解釈を変更
秋以降 周辺事態法、PKO法、自衛隊法改定
12月 日米軍事協力の指針改定
 
社説首相「閣議優先」答弁 解釈改憲の強行許されぬ
琉球新報 2014年2月23日  
 安倍晋三首相が、国会答弁で集団的自衛権の行使容認をめぐる憲法解釈に関し「最終的に閣議決定で変更していく方向になる」と変更に向けた具体的手続きを示した。つまり閣議決定前の国会への解釈変更案の提示を拒否したのだ。
 歴代政権は集団的自衛権について、戦争放棄と戦力の不保持を定めた憲法9条から「許容された必要最小限の範囲を超える」として行使を禁じてきた。これに対し、安倍首相は「戦争する国」になるか否かという国の命運にかかわる意思決定を、国会の頭越しに進めると宣言したに等しい。三権分立を揺るがす重大な問題だ。解釈改憲の強行は断じて許されない。
 
  首相は憲法に関し「不磨の大典ではなく正面から向き合って変えてこそ、戦後体制からの脱却になる」と述べ、将来的な改正に重ねて前向きな考えを示した。
  だが、このような首相の歴史観、憲法観こそ国民論議が必要だ。積極的平和主義の下、集団的自衛権の行使を可能にしたい首相にとって、戦後日本は卑下すべき対象なのか。戦争放棄をうたう平和憲法を守り、戦争をせず自衛隊から戦死者を出さなかったことを過小評価していないか。首相にとって、それは消極的な平和主義なのか。
 
  元内閣法制局長官の阪田雅裕弁護士は、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に関し「憲法9条の意味はなくなる。法治国家では、法律が時代遅れになれば改正する。なぜ憲法だけ解釈変更していいのか。そんなことが許されるなら立法府は要らない」と批判している。
 
  首相が設置した安全保障に関する有識者懇談会の座長代理、北岡伸一国際大学長は21日の講演で集団的自衛権の行使容認に関し、朝鮮半島有事を念頭に、周辺事態法の改定を想定していると明言。4月に政府へ提出する報告書の内容に関し、実際の行使は「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合」など五つの条件を設け「抑制的に」運用する方針を示した。
  首相や有識者懇の前のめりな言動は危うい。そもそも憲法改正について国民合意はない。集団的自衛権の行使容認についても国民的議論が全く尽くされていない。政権には歴史認識をめぐり近隣諸国と悪化した外交関係の改善など優先課題があるはずだ。国民を戦争ができる国へ導く集団的自衛権行使容認の憲法解釈の変更は不要だ。
 
歯止め役 公明正念場 集団的自衛権 首相「独走」
東京新聞 2014年2月23日 
 集団的自衛権の行使を認めるため、政府の憲法解釈を変えようとする安倍晋三首相の「独走」ぶりとは対照的に、ブレーキ役として期待される公明党の歯切れが悪い。連立与党内の溝を際立たせたくない心理が働いているようだが、解釈改憲の動きを止められないようなら「平和の党」の看板を下ろさざるを得なくなる。 (生島章弘)
 
 「真正面から否定しているわけではなく、慎重に議論しようと言っている」
 公明党の井上義久幹事長は十八日の講演で、自衛隊の海外での武力行使に道をひらく集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲について、こんな発言をした。
 井上氏は十七日の政府与党協議会でも、首相が解釈改憲をめぐって「最高責任者は私だ」と国会答弁したことについて「慎重な答弁をお願いしたい」と述べるにとどめた。二十一日の記者会見では、首相が国会での議論は閣議決定後との考えを示し、国会軽視と批判されたことにも「首相は与党協議や国民の理解(が必要)という認識を持っている」と擁護した。
 
 公明党は結党から五十年間、「平和」を旗印にしてきた。結党時は自衛隊を違憲とみなし、日米安全保障条約は破棄すべきだと主張していたが、党勢拡大に伴い「自衛隊合憲」「日米安保容認」に転換。それでも、自衛隊が海外で武力行使することには一貫して反対してきた。
 二〇一二年末に自民党とともに政権復帰した後も、山口那津男代表は集団的自衛権の行使容認を「断固反対」と訴え、安倍政権が解釈改憲に踏み切った場合には連立政権を離脱する可能性にも言及していた。
 
 ところが、改憲勢力の日本維新の会やみんなの党が安倍政権に接近する姿勢を見せるようになると、連立政権から外されることを恐れてか、強硬な反対論は自粛。自民党が圧勝した昨年七月の参院選後は、慎重な議論は求めても反対を訴える場面は減った。
 公明党は「平和」と並んで力を入れる「福祉」で政策を実現するには、与党であり続ける必要があり、党執行部には「政府・自民党の意向に反対ばかりできない」という空気も広がる。
 
 安倍政権は四月にも有識者会議が報告書をまとめるのを受け、自民、公明両党と解釈改憲に向けた協議に入る考えだ。
 集団的自衛権の行使容認は、公明党の理念である「平和」に反する。安易な譲歩は党の存在意義の否定にもつながる。党幹部は、春にも本格化する協議について「党の正念場だ」と話す。